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国立極地研究所 石沢賢二さん  インタビュー

 

南極での共同作業

もしかしたら、私が南極の魅力に取り憑かれたのはまさにそういったシーン、“自分の生きる力をプリミティブに試される”という場面に立たされるという緊張感かもしれませんね。「素人だから分からない」ではすまない。専門家じゃなくたって、よりよい行動をよりよい成果で生み出すためにとにかくどんどん口を出し、身体を動かす。南極はそういう場所なんです。

編集部:ご自身の経験を踏まえて、南極に長期間滞在する上で必要とされる能力や適性があるとすれば、それは何だとお考えになりますか?

石沢:なによりもまず「コミュニケーション力」だと私は思いますね。やはりチームが一丸となって越冬しなければいけないわけで、しかも越冬隊は丸々1年間にわたって南極の基地という狭い空間に共同生活をする訳です。ですからその期間中に人間関係のトラブルが生じることが一番厄介ですよね。 しかし現実問題として、南極へ行って半年くらい経たないとお互いに相性とか、そういう本音は分からないものなんです。大人の集団ですからみんな、半年くらいまでは仮面をかぶっていますからね。(笑) それが太陽の出ない冬の時期をなんとか乗り越え、ゴールを予感させる太陽が再び見え出した頃になって、徐々に本音が噴き出してきたりするんですね(笑)

しかしこういう時期が一番危ない。気の緩みから事故も多くなるし、馴れ合いからの甘えもでる。本当に気をつけなければいけません。隊員としての自覚も、隊長の真のリーダーシップも、本当の意味で問われるのは実はこのタイミングなんです。ただ、日本の観測隊は南極に発つ前からチームメンバーが招集され、共同トレーニングを実施したりしています。外国に比べると基本的にはチームワークもよく、しかも安全教育がしっかり出来ていますので事故が圧倒的に少ないことも事実です。ここは世界に誇れる点だと思いますね。

さて「コミュニケーション力」の次に必要なことは「自力で、自分にとって、また他人にとっても必要とされる仕事を見つける力」です。もちろん南極には、ひとりひとりの隊員がミッションを持っていくわけですが、自分に与えられた仕事だけをしていているだけではダメなんです。南極にはレジャーもないし、気晴らしをしようにも、選択肢が極端に制限されています。コンビニエンスな状況に慣れきっている現代人にとっては、なかなか難しい環境なんです。責任感を持って、堅実にミッションを遂行していくには、まず自分のペースを持って自己を律するルールを持ち、常に何かをやっていないとつらいものがあります。“極地”という環境下で普通の生活をするということが実は非常に大変なものなのです。そういう意味では例えば、お医者さんにはすごくストレスを感じる状況かもしれません。

 

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