エコ作の生産工場を訪ねて

編集部

私たちの知っているビニールハウスに比べるとすごく大きく、まさに野菜工場という感じの外観ですね。

山本

太陽の光をもっとも効率よく取り込むために全面ガラス張りになっています。緑の野菜を計画的に生産するためにはまず太陽の力を最大限に取り込むことが出発点ですから。適切な日照時間を確保するために、冬季は補光ランプを使いますが、まずは偉大な太陽の恵みを工場内に招き入れることが最重要です。

さて、工場に入る前に白衣に着替え、しっかり手を洗ってくださいますか?そして、エアーシャワーのドアからひとりずつ中に入りましょう。



編集部

グリーンハウスに入るときはいつもこうしていらっしゃるんですか?

山本

もちろんですよ。食べ物を扱うと言う点で、食品工場のような衛生管理を目指しているので、白衣、帽子、長靴を着用し、入室時は手洗いの殺菌と身体に付着ているものを吹き飛ばすエアーシャワーを浴びることになっています。

編集部

まぶしいような鮮やかな緑ですね。

山本

この土浦グリーンハウスは奥行きが100メートル、幅が54メートル、総面積は5400平方メートルあります。手前が方角的には北側にあたり、大きな野菜、つまり収穫を控えた野菜たちが並んでいます。

こうして一望されたので、既にお気づきかもしれませんが、一番奥(南側)が種まき、苗をつくるライン、そしてその中間のエリアがまさに成長途中の野菜です。ですから私たちが立っている場所は最後の収穫のシーンにあたります。姿・形も揃ったきれいなフリルアイスがご覧いただけるでしょう。

とにかく、このグリーンハウスは横持ち作業などの無駄な動きを省いた一貫した生産ライン、このあたりは鉄の生産ラインから学んだJFEライフならではの設計です。

なにしろグリーンハウス内で働いているのはほとんどが女性のスタッフですから、彼女たちへの負荷が少なく、重いものを動かさないですむような設計でもあるんです。

野菜たちは生長段階に合わせ、大小のサイズの違うパネルに植え替えられるシステムなんです。その上、このパネルはプールの上に浮いているだけなので、女性が軽く押すだけで簡単に液面上を移動させることが可能となっています。

【エコ作】の二番目のポイントはこの水耕栽培、オゾン殺菌した清潔な水を使っているので、農薬等は一切不要です。働く人にとっても消費者にもとっても安心・安全な生産方法です。

編集部

まさに人に優しい工場ですね。

山本

安心して食べていただける美味しい野菜を作ることが私たちの使命ですから、生産現場の人たちにとっても、扱い易い安全なシステムにしておかないと、その先にいらっしゃる流通やエンドユーザーなどのお客様に評価されるものは出来ないのではないかと思います。

さらに丁寧に、安全に、そしてより喜んでいただける管理が私たちの継続的な課題です。



編集部

グリーンハウス内の環境はどのようなシステムでコントロールされているのですか?

山本

ハウス内はコンピューター制御システムが採用されていて、適切な気温、水温、日照時間が保たれるようになっています。今のように冬季は気温も下がり、日照時間も減少するので大変なように思われがちですが、実は野菜たちは夏が一番苦手です。高原野菜の代表格がレタスというのはご存知ですよね? 夏場に長野県がレタスの名産地であるのは高原の冷涼な気象条件が栽培に適しているからです。

グリーンハウスは、夏季のハウス内の温度調整には細心の注意と最新の技術を導入して取り組んでいます。ハウスには天井に窓が設置されていて、適切な換気が迅速にできるようにしています。その際、外から虫が入らないように、非常に目の細かいネットが天井の窓の開口部に張ってあります。これで、春や秋の室温の上昇には十分対応できます。

問題は夏です。夏の暑さ対策には天窓だけでは不十分ですから、この壁面に設置されたクールセルと呼んでいる冷却システムが大活躍することになります。クールセルとはダンボールのような素材の升目に水を流し込み、そこに換気扇で風を送り込む事で水を気化させる仕組みです。

これは昨年の名古屋の“あい地球博”会場でも話題になった“打ち水”と同じ原理なのですが、この省エネ冷房システムを使うと、ハウス内の温度を夏場でも下げることが出来ます。土浦グリーンハウスの実績では外気温に対して最大5℃程度までは下げることができています。

ただ、日本は高温多湿の風土ですので、このクールセルだけに頼るのではなく、省エネ設備を複合的に活用する制御システムがハウスには導入されています。 天井に張った黒の遮光カーテン、更に内部カーテンや扇風機を気象の変化に応じて、自動制御で動かし、ハウス内の風の流れを効率よくデザインするなどして、夏季でも安定して生産できる工夫をしています。

編集部

なんとなく夏は冬に比べて簡単に育つように考えていました。つまり、冬の寒さ対策の方が大変なように想像していました。こんなに整備された環境にあっても野菜づくりは一筋縄では行かないものなんですね。

山本

もちろん冬は冬で、野菜たちへの栽培配慮をしています。ガラス張りのハウスの環境は太陽光を導入する上では理想的ですが、冬季は素材がガラスであるが故に、室内の熱を外に放射してしまう難点があります。

夜間、温度が下がり過ぎると、まず天井の保温カーテンが閉じ、それでも一定の温度が維持できないときは、暖房機が作動します。今日は外気温が約5℃ですが、ハウス内は現在18℃〜19℃に保たれています。 これで太陽が出てくれば20℃は超えるはずです。

でも、先ほどお話ししたように、夏の温度調整には冬以上に心を砕きます。レタスは元々一年草で、日照時間が長くなり、温度が上がると花をつける品種があります。短い期間ですが、夏場はグリーンハウスのレタスにも一部で花芽がつきそうになります。花がつくと、レタスは軸が伸びて葉に重さが乗りにくくなり、商品価値が低くなってしまうんです。

その上安価な路地モノも大量に出回る夏季は、美味しさと品質で【エコ作】をきっちりと消費者にアピールしつづけるには、まだまだ努力が必要だと痛感しています。(次のページへ)