松下電工株式会社「あかり安心サービス」
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蛍光灯を確実にリサイクルする取り組みとして注目される松下電工株式会社の『あかり安心サービス』。企業が提供する新しい形の「環」の先に、環境と共生する未来への光を探してみました。

松下電器産業株式会社が2002年4月にサービスを開始した『あかり安心サービス』は(現在は松下電工株式会社に事業移管)、当初から多くの企業や団体等から評価され、2006年10月時点で、687法人、約3,828事業所との契約が結ばれるサービスとして注目を集めています。このサービスの仕掛け人にお話を伺うことができました。

宮木正俊さん・仲田和美さん

松下電工株式会社 電材マーケティング本部
カスタマークリエイトセンター ソリューショングループ
宮木正俊さん 環境・メンテナンス事業推進担当 部長(写真左)
仲田和美さん 環境・メンテナンス事業推進担当 主任(写真右)

 

あかりという機能を提供する「サービス」を売る 問い 『あかり安心サービス』がスタートしたいきさつについて伺えますか?

宮木:
バブル崩壊以降、大量生産、大量消費を前提としたビジネスモデルに対して、社会の評価が変わってきました。また、廃棄物の清掃と処理に関する法律(廃掃法)が改正され、事業者の排出する廃棄物の処理について、排出事業者の管理責任が厳しく問われるようになりました。松下グループは、そもそも蛍光灯を製造し、販売することを事業としてきましたが、このような流れの中で、蛍光灯事業の将来について真摯に検討する中で、蛍光灯という製品の販売ではなく、「あかり」という機能の提供を事業化することを考えました。

『あかり安心サービス』とは、「お客様に蛍光灯を貸し出し、お客様は蛍光灯から出る“あかり”を使い、使用後の蛍光灯は貸主であるあかり安心サービス会社(松下電工指定代理店)が回収する。回収した使用済蛍光灯はあかり安心サービス会社が責任を持って再資源化処理を行う」というものです。

昨日まで蛍光灯という“製品”を売ることでビジネスを成立させてきた企業人にとって、蛍光灯そのものは売らずにあかりという機能を提供する“サービス”を売るということに、抵抗もありました。使用済み製品の処理もサービスとして提供するわけですから、何から何まで新しいことだらけです。これは、メーカーにとってこれまでの価値観を覆すような大改革で、社内を説得するもの大変でした。

   
  問い 『あかり安心サービス』の『安心』とは、どんなことでしょうか。
  企業などの事業者が蛍光灯を購入した場合、使用済みの蛍光灯は産業廃棄物として排出者責任を全うし、確実に処分することが求められます。『あかり安心サービス』では、蛍光灯はこの事業のパートナーであるサービス会社が蛍光灯を所有しますので、使用済みの蛍光灯の処分はサービス会社の責任となり、「あかり」の利用者となるお客様には、排出者責任がありません。サービス会社の使用済み蛍光灯は、松下電工の選定基準をクリアした処理工場に処理委託します。松下電工では、使用済み蛍光灯から確実に水銀を分離除去し、ガラス、金属などもリサイクル原料として資源化されるリサイクル率の高い処理工場を推奨しています。
このシステムによって、「あかり」の利用者には、排出者責任がなくなるだけでなく、使用済みの蛍光灯が確実にリサイクルされていることが明白となり、「安心」が得られます。私どもが、『あかり安心サービス』を検討していたときに、使用済みの蛍光灯を確実にリサイクルする処理工場が、すでに存在していたことが、このサービスを完結させる上で大きな助けになりました。松下グループにとって廃棄物処理は未知の分野でしたから、全国の再資源化工場と連携することで早期の事業化が実現でき、サービスコストの低減も図れました。
   
宮木正俊さん
松下電工 宮木正俊さん
問い 蛍光灯という特定の製品もきちんとサイクルされる枠組みが日本に根付きつつあるのですね。
 
あかり安心サービス:フロー
 
宮木:
『あかり安心サービス』を手短に説明すると、以下の3点に要約されます。
    1. 蛍光灯を売るのではなく(蛍光灯の所有権を移転せず)“あかり”という機能のみを販売する。
    2. 顧客の使用状況(使用蛍光灯の本数、種類、使用時間)などを調査し、それに基づいてサービス料金を決定する。
    3. 切れた蛍光灯は顧客側で備蓄分と交換。使用済み蛍光灯は、サービス会社が一時回収し、倉庫に保管後、委託した廃棄物収集運搬会社を通じて再資源化ルートに乗せる。

    4. ※あかり安心サービスは蛍光灯以外のランプ(電球・水銀灯等)も対象です。
 
非常にシンプルな流れでしょう? しかし、立ち上げ当時は、メーカーは“ものづくり”に徹底的にこだわり抜くというのが、社内の主流の考えでしたので、“サービス”を売るという発想への風当たりは相当強いものがありました。でも、『企業は社会と常に共にあり、“社会のお役に立ってこそ”企業は存在意味がある』というのが、創業者、松下幸之助の精神です。次第に、このサービスの実現に向けて、理解を得ることができました。
   
  問い 計画段階とサービスをスタートされての反響はいかがでしたか?

宮木:
プレス発表の日は心臓が破裂しそうでしたが、発表の翌日から電話が鳴り止まないほどの反響がありました。ジャーナリストの皆様からも予想以上の関心と支持が得られました。そして何よりも、自分の目でこの反響を見たことで大きな勇気を与えていただきました。
“モノを売らない”という新しい発想が生み出した機能提供型サービスが事業としても成立することを確信しました。

私たちが提案した『あかり安心サービス』は、“蛍光灯”という製品=“モノ”を皆様に所有していただくのではなく、「あかり」という“機能”を利用していただき、それに付随するリサイクルなどもセットにしたシステムのトータルサービスなのです。

環境関連のモノではなくサービスを提供することは“グリーン・サービサイジング事業”と呼ばれるのですが、2005年から経済産業省ではモデル事業の公募も始めています。今後はこうしたビジネスが益々注目を集めるようになるでしょうね。

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