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料理の中にムラをつくる

――佐竹シェフはイタリアに留学され、料理を勉強されましたが、本場のイタリアンはどうでしたか?

 僕が、イタリアで教わったのは「料理にムラをつくる」ということでした。イタリアに留学中のあるとき、僕はみんなにラザニヤをつくって振舞ったことがあります。日本で習ったように、具を均一に散らして、どこを切り分けてもみんなに均等に味わってもらえるようにしました。ところが、食べたみんなは「美味しくない」っていうんですよ。僕はびっくりして理由を聞きました。すると彼らは「このラザニヤはどこを切っても同じじゃないか。いろんな味が楽しめないなんてつまらない。料理にはムラをつくらなければいけないよ」と言ったんです。それを聞いて僕はなるほど、と思いました。つまり、具が多いところ、チーズが多いところ、皮が多いところ、一品の料理でいろんな味わいを楽しむことをイタリア人は「美味しい」と感じるんだと。
 その発想を敷衍していくと、均一でないものを求めるようになります。パスタをソースと和えるとき、僕は数回しか混ぜません。ソースがたっぷりからまったところ、パスタそのものの味を楽しんでもらうところをつくる。
「料理にムラをつくる」ってこういうことなんです。
 すると、まっすぐなズッキーニよりいびつなズッキーニの方が「ムラをつくる料理」にはふさわしいということになります。まっすぐなズッキーニでムラをつくろうと思えば、技術が必要。でも、いびつなズッキーニならただ炒めるだけで、煮るだけで、一品の料理に「ムラ」がつくれるわけですから。
 和食で「ムラ」を味わっているのは丼ものですよね。タレがたくさんかかったところ、ご飯だけのところ、そういう「ムラ」があるから美味しいわけでしょう?
 日本では「均一」をよしとすることが多いように思います。「料理にムラをつくる」という発想は、いろんな人がいる社会を楽しむ思想につながるのではないか、これからの日本はそういう発想が必要じゃないかなと思っているんです。
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