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畑正憲さんへの質問
――お声をかけられて、畑さんの反応はいかがでしたか?
すごく喜んでくださって、お宅にも招いてくださったんです。畑さんのスケジュールが合わず、実際にはお邪魔できなかったんですが、お招きくださっただけで、僕はとてもうれしかった。
そして、畑さんとお話するうちに、さらに聞いてみたいことが出てきました。一人で考えても答えが見つからないことがあったんです。最初に尋ねた質問は、こうです。
「山にユリの花が咲いている。なんて綺麗なんだろうと思い、取りたくなる。でも、自然は守らなければならないとも思う。どちらを選ぶのが正しいでしょう」この質問に対する先生の答えはこうでした。
「花を取ってはいけない、という人の足は草を踏んづけています。花が咲くもの、つまり自分にとって有利なものは守ろうとするけれど、雑草は守ろうとしない。それは、エゴです」
2番目の質問。
「キャッチ&リリースと言われますが、リリースするなら捕らなければいいのではないでしょうか。僕は、自分に必要なだけの魚を捕って家族でいただいています。キャッチ&リリースは本当に必要でしょうか」
畑さんの答えはこうです。
「もし、キャッチ&リリースをするのであれば、大きい魚を逃がしなさい。また、卵を産むから。小さい魚は何匹捕っても変わらない。大きくなって帰って来いよ、というのであれば、今捕っても同じでしょう」と。生物学者でもある畑さんはさらに、こうつけ加えました。
「魚は8〜10℃くらいの水の中にいる。それに対して人間の体温は36℃。だから、人間が触った瞬間に火傷をしています。魚を触ると手がぬるぬるするというのは、魚の表皮が剥けているからです。それだけのダメージを与えた魚を逃がしても実は救いにはなっていないでしょう。ましてや、人間の匂いがつくと、繁殖期の場合、相手の魚が逃げてしまう」と。
つまり、自然はそれほど厳しいものだということです。テレビなどでは、親鳥がヒナ鳥を育てる美しい姿だけが流布されます。でも、例えば、クマタカの場合、親がいない間に観察と称して人がヒナに触ると、戻ってきた親鷹は人間に触られたヒナを巣から落としてしまうんです。残ったヒナに「この臭いはダメだ」と教えるためです。キツネもタヌキもウサギも同じ行動をとります。それが自然界の厳しさです。そんな中で、生半可な人間の“博愛”には意味が無いでしょう。結局、人間が生態系の中で一番弱い。自然を破壊するほどの力は人間には無い、ということです。
「だから、欲しいだけ魚を捕ればいいし、花を摘めばいい」と、畑さんは言います。でも、僕の中には割り切れない思いもあって、さらに畑さんに問い掛けました。「大自然の中に暮らす先生と僕では環境が違う。僕のようにたまに自然を訪ねる者が『欲しいだけ捕る』と、奢ってはいけないんじゃないかという気持ちもあるんですよ」
すると畑さんは一言、
「そう思うのは、君が毎日の義務を果たしてないからだ」と。畑さんはそれしか言わなかった。だから、その後、僕はその意味を自分で考えるしかありませんでした。>>次のページ