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毎日の義務とは?
――「毎日の義務」とは何だと思われましたか?
毎日の義務を果たせば、おそらく悔いが残らないのでしょう。悔いがなければやりたいことができる、そういう意味でおっしゃったんでしょう。そこまでは想像がつく。じゃあ、「毎日の義務って何?」と考えます。電車の中でお年よりに席を譲ること?
道端でゴミを拾うこと? でも、それは義務じゃない。人として当然の振る舞いですよ。そこで、基本に戻って「義務」の定義を考えました。反対語として「権利」が思い当たる。権利が発生したときに義務が生じるわけです。じゃあ、自分にとって最大の権利って何だろう。
それは、仕事。仕事が僕にとって最大の権利だったんです。僕は美味しい料理を作りたい、多くのお客様に来てほしい、そういう権利を主張します。すると、美味しいものを作るためにしなくちゃいけないことがある。お客様に来ていただくためにしなくちゃいけないことがある。それが義務。そう考えるうちに、僕は「環境」を全体的に考えるようになったんです。
例えば、牛乳屋さんに「もっと美味しい牛乳をください」と言っても、片方で牛乳パックを捨てていたら、義務を果たしていることにはなりません。また、「美味しい」という注文も個人の主観でしかない。牛に夏草をいっぱい食べさせたら水っぽいミルクが出る。それを「ダメだよ、こんなに水っぽいのじゃ」と言ったところで、牛に罪はない。逆に、冬になれば、乾燥した草を食べているから高脂肪のミルクが出る。でも、「こっちの方がいい」と言ったって、牛にはわからないわけです。牛が悪いわけじゃない。だから、水っぽいミルクと脂肪の高いミルクをどう使いこなせるか、どう捨てないか、が僕の義務であり、それを果たすことで、美味しいものを作る権利が生まれてくるのです。
生産現場にも足を運び、実態がわかると、問題点も見えてきます。引き続き牛乳を例にして話せば、みんなが瓶で購入すればリサイクルできるけれども、それができないので牛乳パックで出荷するしかない。でも、そのパックが純正パルプであれば、ひょっとするとオーストラリアの木を何本か切ったかもしれないわけです。木を切るのは反対だと言いながら、紙パックを捨てていたら、義務を果たしたことにならない。
だから、僕の店では紙パックを洗って干して束ねたものを、リサイクルに出すことにしました。牛乳屋さんも喜んでパックを引き取ってくれます。リサイクルするそうですよ。
そういう一つ一つの細かなことをクリアするための店がここ「カ・アンジェリ」です。そうじゃなくて、「もっと美味しい牛乳をちょうだい」「高くてもいいからもっと美味しいトマトを持ってきて」と頼んでいたのが、前の「ヂーノ」という店なんです。
畑さんとの出会いや、釣りを通して会得したこと、自然の中で生きる時間を体感するライフスタイルをベースに、僕は権利とその義務を果たしていくための、この店をつくっていくことにしたわけです。>>次のページ