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ハードをつくってハートをこめる
――食には欠かせない水。「カ・アンジェリ」ではどうしてらっしゃいますか?
水道の水を僕は「殺菌水」と呼んでいます。それは、飲料水にしては大腸菌の基準値を超えている、ということで「すわ、大変だ」となった結果の水なんです。つまり、対処法として塩素を投入し、大腸菌の数を減らしているだけ。塩素を入れた「殺菌水」なんですよ。本当に水の汚染を解決するには、塩素を投入するのではなく、「水を汚さない」ことが必要でしょう? うちの店では浄水器をつけてマイナスイオン化した水を煮炊きに使っています。お客様には水道水は一切お出ししません。イタリアの軟水をミネラルウォーターとしてお出ししています。だから、夜は500円をパン代と水代として強制的にもらってしまうんです。その代わり、安心して召し上がっていただきます。
ただし、これらは全部「権利」ですよね? じゃあ「義務」は?
安心できる水を得る権利に対する義務は、汚い水を出さないことだと気づく。排水には洗剤と油が混ざっています。これでは、余計に塩素殺菌しなくてはならなくなる。そこで、下水につける浄水器を探しました。すると、どこもつくってないのです。確かにみんなが下水に浄水器をつけるようになったら、上水の浄水器がいらなくなってしまう。なるほど、商売をする人は売れるように考えているわけですよ。使う側としてはどっちにつけたっていいのに。
ただ、現実として下水用浄水器はないので、どうすればいいかと方法を探していったんです。そして、見つけました。洗剤を全く使わないことはできないけれど、減らすことはできる。洗剤を減らして、減らす前と同じ洗浄力をキープできる分岐点を探っていったんですね。すると5倍まで同じでした。もちろん、5倍に薄めると5倍、洗う時間がかかります。でも、逆に時間をかければすむことなんです。
思わぬ効果もありました。まず、手が荒れない。しかも5分の1の経費で済む。これがエコロジーです。楽になって手がかからない。“エコノミー”のエコでもあるわけです。逆に言えば、お金と手間がよりかかるようではエコロジーとは言えません。お金が無くなったら終わってしまうし、大変だとなったら3日で止めてしまうでしょう?
この5分の1の洗剤に慣れると、もう原液には戻れません。ぬるぬるして手が荒れるから。
エコロジーはこういうことの積み重ねですね。
――「カ・アンジェリ」では、店内がすべてバリアフリーにつくられていますね。
近年「ユニバーサルデザイン」という概念が提唱されました。宇宙観を持ってものづくりをしましょう、という考え方ですね。僕も関心を持って、セミナーに参加したりして勉強しました。そこから出てきた考え方の一つがバリアフリー。バリアフリーは近年盛んに人口に膾炙するようになりましたが、これは実はコンセプトでもなんでもない。ユニバーサルデザインから出てきた一つのハードの形でしかないんです。
でも、バリアフリーに関わっている人たちと話していて面白いと思ったことがあります。彼らは言うんですよ。「ハードをつくるとハートがなくなる」って。たとえば、最近よく駅にエスカレーターとエレベーターが設けられていますよね。でも、あれができることによって駅員さんたちが障害者へのサービスが無くなるわけではありません。本当はハードができることによって、どうサービスできるか、その向上を考えなくてはならないはずです。
僕は、店を全部バリアフリーにつくりたい、と思いました。一階だけの店舗にして、段差を一切なくした。でも、この店ができた当初、取材をしてくださった方々は「佐竹さんのバリアフリーができました」とおっしゃった。でも、そうじゃないんです。僕がやりたいと思うことのハードができただけですから。そこからハートを込める作業が始まるんです。バリアフリーによって車椅子のお客さまをどう迎えるか、どうサービスできるかこそが問題でしょう。>>次のページ