編集部:でも多忙を極める三國さんが何故、この「食育レッスン」を開始されたのですか?
三國:僕は北海道の海辺の町で育った。父は漁業、母は農業、自然の幸と向き合う仕事をしていて、僕たち子供は毎日新鮮で健康な食材を目で見て、味わってきた。自然な食材は基本的に固くて味が薄い、だけどしっかり噛んでゆくことで味が滲み出てくる。しっかり噛む事で、味がするという感覚って、僕はとても大事だと思っている。
1980年代の後半、ヨーロッパ、特にフランスではアメリカ文化の影響から食というシーンが激変する事態が起こる。ファーストフードという食習慣が若い世代を中心に急速に浸透していった。つまり、柔らかくて、刺激があり、短時間で食事を済ませることができる食事のライフスタイルと価値観だ。この動きは、「新しい味の発見は人類の幸せにとって、新しい天体の発見よりずっと大切」と思っているフランス人、特に時間を惜しまず“美味しいものを作ること”に全精力を注いできた料理人たちにとっては空前絶後の大問題として映った。そこで、有力シェフたちが音頭をとり、子供たちに本当に美味しいものを食べてもらい、その価値や意味を知ってもらうために学校に出かけて行って、料理を食べてもらうという運動を起こしたんだ。僕自身、フランスの料理人組合のメンバーでもあったし、日本で自分も何らかの行動を起こすべき、と考えるようになった。