トンボ調査を通じて、京浜臨海部の自然環境の変化はお感じになりますか?
以前は、「チョウトンボ」などは横浜ではとても珍しかったのですが、いまでは珍しくもなんともないくらいに増えて、京浜臨海部でも見ることができます。「ギンヤンマ」も、平地の水域が無くなってしまったことが原因で、一度は減ってしまいましたが、近年はだいぶ見ることができるようになってきました。また今年になって、京浜臨海部の企業の中で新たなビオトープを設置した企業もあり、そこでもトンボの飛来が確認できました。
トンボというのは、生息環境に対して対応性の高い生き物ということですか?
トンボの種類によって段階がありますね。環境の成熟度によって生息するトンボが違うので、どのような種類のトンボがいるかが分かると環境の成熟度が分かるわけです。
京浜臨海部やその周辺の自然もかなり成熟化が進んでいるのですね。
そうですね。横浜市内では農地での減農薬なども進められていますし、排水などもきれいになった点は自然が再生しつつあると言えると思います。京浜臨海部を横切る鶴見川では、いろいろな魚が生息するくらい水質が改善されましたしかし、トンボ調査は単純に都市を流れる川がきれいになったとかそういうことだけを明らかにする目的ではありません。自然というのは、ある地点がダメになっても、他の場所がカバーしたり、お互いが入りこんで影響し合って永らえていくものです。相互的な供給機能を持った自然ネットワークが必要です。いくら一部の地域に自然が戻っていても、それが周囲に供給可能な生物ネットワークの中で機能する自然でなければ意味がありません。そういう自然本来の機能をもった自然環境が、日本で最も大きな工業地帯の中に存在するということが重要だと思いますね。
京浜臨海部はもともと東京湾だった場所が、埋め立てられて出来たのですが、工場立地法などの定めによって、企業は土地の一定割合を緑地にしなくてはいけませんでした。そこが半世紀近く経つと、自然林に近い状況が生まれており、さらに、いくつかの企業は先進的にビオトープも作っていました。実は工業地帯の中というのは、生半可のところよりよっぽど自然が残っているのではないかということに、行政や一部の市民団体などが気づきはじめたのですね。企業もあまり気が付いていなかったし、一般市民もそんなに気が付いていない。しかしその裏には企業の地道な努力が隠されているわけです。企業が周囲との相互供給機能をもった自然ネットワークを提供していることを証明できたとしたら、企業努力が目に見えた形で認められることになる。それが報道されたりとか市民運動に影響を与えたりもする。宣伝に大きなお金をかけなくても実質的に企業は大きな評価を得ることになります。
環境活動が行われている体制面での変化はどうお感じになられますか?
企業や団体からの参加が、以前より積極的になったと感じています。場所と機会だけでなく実際の調査員としても企業の方に参加していただいています。先にお話しした通り、横浜市というのは行政や市民団体が環境活動に対してとても先駆的で、もともと動きが良かったのです。しかし、いままでの市民運動というのは行政や企業と対峙する形で行われていたものが多かったのですが、最近は対峙ではない新しい形を模索していると感じますね。地域の人が市民活動を通して、企業と交流することによって、企業への親しみ・愛着が湧いたりということも起こりますし、企業にとっても非常に意義のあることですよね。
市民・企業などが連携して仲間意識を持つということですね。
このフォーラムのユニークな点は、たくさんの企業、市民団体、行政、学校などが様々な立場から一つの活動に関わり合いを持っているということだと思います。そのように協調していく道を見出していかないと地域が抱えている環境問題を切り開いていくことは難しいかもしれません。