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イタリア人の仕組みづくり

――小黒さんはソトコトを通して、環境問題をイデオロギーではなく、ビジネスとして捉えることを実践なさいました。

大体、ソトコトって一見、何の本かわかんないでしょう。まずは、他と違うということが大事だという視点で始めたから。
でも、この前、上海で仕事したんだけど、「中国語でソトコトを出したい」って言われたよ。僕は「早すぎるんじゃない?」って言ってきたんだけど。やっぱり、世界中がすごい勢いで目覚めてるんだね。環境問題をファッションとして取り上げるっていうことへの興味が、目覚しく高まっているらしい。
大手広告代理店が、NPOをクライアントにしようっていう動きもあるからね。いいことだと思うよ。僕がソトコトを立ち上げたのは、環境問題は金になるってことを実践するためでもあったからさ。そうならないと世の中は動かない。環境問題をやって、貧乏になって、不愉快になっても意味ないじゃんって僕は思うんだよね。
実際に動いてきたな、と思うよ。今まで環境問題は、企業経営者にとってストレスのかかるテーマだったんだけど、今や180度変わって、ビジネスチャンスとして認識されるようになった。そんな手ごたえを僕は感じるから。

――小黒さんは、スローフード協会事務局長も務めてらっしゃるんですよね?

スローフードは、子供たちのために正しい食文化を大事にしようっていう
運動だと思われているけど、そうじゃないんだよね。要するに、快楽思考。人として生きている以上は、快楽を追及することが人の正当な権利なんだよね。だから、スローフードの運動はグルメから始まっている。僕はイタリアに行って現地の動きを見てみて、スローフードの仕掛けをまざまざと体験した。例えば、アルカ(L’ARCA「味の箱舟」の意味)っていう、消え行く食材を守りましょうという主旨の運動がある。消え行く食材っていうのは少品種じゃない? それを守るために、イタリアの運動推進者たちが言っているのは、そういう食材を都市のグルメが集うレストランの腕利きシェフに高価な料理にしてもらおう、開発してもらおうってことなんだよね。つまり、少量品種を大量に流通させることを目的としているんじゃないんだよ。だから、何も貧乏な人が高い食材をわざわざ買う必要はないんだよね。珍しい食材はグルメにとって希少価値なわけだし、腕のいいコックには喜びなわけでしょ。要は、ゲームなんだよね。非常にうまく仕組みがつくられている。それがスローフードの新しさ。イタリア人は、普及のためのシステムづくりがうまいと思う。

――でも、そのスローフードをいち早くテーマに掲げたソトコトも見事ですよね。

それは、ソトコトが最初売れなかったから(笑)。環境問題って食にからめると一番わかりやすいんだよね。やっぱりストレートに地球温暖化っていわれても身の回りのテーマにならないじゃない? だから、ソトコトでは「モノコト」でモノを通して環境を語るし、スローフードでは食を通して環境を語る。やっぱり、スローフードを取り上げてから、変わったよね。スローフードが社会的な言葉になるにつれて、雑誌の知名度が上がったし、広告が入るようになった。最近は、こちらから依頼せずに広告が入ることも多くなったからね。>>PAGE-4