一般に、製造者責任が声高に言われる一方、使用者責任に言及されるケースは著しく少ないように感じます。今後の事故を回避するには、使用者への啓蒙というのも重要なテーマになってくると感じています。
私はプリウスを初代から、2代目、3代目と乗り続けています。私のような色々ともの申す立場にいると、机上の空論ではなく、自分で経験して、記録をとり、検証しないといけませんのでね(笑)。長く乗っているうちにその技術的な興味の発展が徐々に深まり、私の中での価値観というものも変容を遂げていきます。最初は、なるほど、ふむふむ、こんなものなのか、と新しい技術に対する感心をし、2代目になると初代と比較ができるようになりますから、これだけ進歩がなされたか、とその興味が広がります。3代目にもなってくると進化のスピードや方向性が徐々に見えてきて、自分の中で未来への理想型が描けてくるようになります。製品は、その技術の進歩を観察することで、使用する側の価値観をも変容させ、その興味を深化させる力を持っているのです。つまり、段階に応じて、製造者と使用者のとるべきコミュニケーションは変わってゆくのです。
製造者は“社会の総意”となる価値観はどこにあるのか、それを常に考えながらマーケットに製品を送り出すようにしなければならない。そしてこの同じ論理が環境問題にも適用されるのです。
編集部:環境問題を、“自分とその周りとの関係性”より深く考えるためのひとつのチャンネルとして捉え、その意味や価値観を共有し、“社会の総意”としていかに立ち上げていくかが、今後の切り札になるということでしょうか?
安井氏:思考の枠を広げ、オリジナルな座標軸に立脚し、洗練された価値観を組み立てる。時代が求めるオリジナルな価値観の構築力、ここに私たちアリ族がキリギリス族に対向する秘訣があるかもしれません。
これは私のかねてからの提案なのですが、選挙を2票投票制にしてはどうかと思っています。1票は“現状における判断”としての票、もう1票は“20年後の判断”としての1票です。このアイデアのポイントは政治家も有権者も20年後のビジョンを語り合う磁場を持ち、未来を真摯に考える責任を共有するという点です。政治にしても福祉にしても環境問題にしても、私たちが望み、本当に手に入れたい幸福への価値観を、より大きな時間の帯の中で深く考えさせるのです。そうすると記録を取る行為にも未来という時間がより具体的に検証されるでしょうし、「今」という状況に対する判断も大きく変わってくるはずです。是非とも実現させたいものです(笑)。
2010年6月11日 NITE理事長室にてインタビュー取材