編集部:海外からモノを輸入してきた総合商社と管理システムを販売してきたエンジニアリング会社による「国内農業ビジネス」への参入というわけですね。
森下:「食」の原料調達や製品流通のグローバル化が進む中で、「食の安心・安全」については、それぞれの国の安全基準値の差異や事業に携わる方々の意識の差から様々な問題が生まれています。安心・安全の問題は今や喫緊の課題になっています。だからと言って、食の安心・安全という強迫観念だけを商品の売りにする様な販売は問題だと思うのです。生産、流通、販売のプロと言われる方々が、少なくとも生産者の「生産履歴」情報を整然と管理し、販売先にその内容を伝えること、或いは生産者は自らの生産品質向上に活かすことが普通になる方が良いですよね。消費者の「安心・安全」に対する意識も一様ではない中で、「安心・安全」の為だけに情報のシステム化を図るのでは、結果として生産者から流通業者、販売者、消費者にコスト負荷を強いることになるかもしれません。しかし、現場にある無駄の排除や生産性の効率化、更には効率的な流通販売へと繋げることで、合理的な費用で「生産履歴」のトレースシステムが導入でき、無駄な流通コストをかけることなく安心な農産物を消費者の手元にお届けすることができます。生産者にとっても消費者にとってもメリットがある。これはまさにWin-Winの関係性として成立するはずです。
編集部:たしかに国民の総意として、安全な国産の農産物を食べたいという気持ちは十分にあると思います。ただ、日本の食品自給率は確か40%ぎりぎりという事態にまで落ち込んでいますが、この事態をどのように分析されていますか?
森下:日本の食料自給率は1960年には80%近くあったものがたった50年の間で半分になった。自分の子供達が大人になった時のことを考えると末恐ろしいことであり、これは誰の目から見ても由々しき事態です。自給率の低下につながる要因としては、戦後の日本人の食生活の変化や、製造業やサービス業などへと就労産業の高次化、国産農産物への価値観の低下など、さまざまな要因があったと思います。事態は2008年の世界食料高騰の余波を振り返っても明白であり、その事実を認識しなければならないと思うのです。“自らを養う上で必要なもの”は自力で調達しないと、他人は助けてくれないという現実が迫ってきたということです。我々大人はマーケットから求められる農産物の生産及び供給を高め、それらを無駄なく流通・販売させ、消費するシステムを構築することを次世代の為に残していかなくてはならないのです。