ecobeing logo

作家 立松和平さん インタビュー

 

そうなると、地球全域の海流の駆動力を弱くしてしまうことを意味します。海流は、ご承知のように地球全体の熱交換システムでもあります。ですから今後、場所によっては異常に寒冷化したり、熱帯化する可能性が出てくるのです。寒流と暖流が交わる、いわゆる温帯に位置するとされている日本なども熱交換が中々されずに、寒冷化が進み凍ってしまうこともありえるかもしれないのです。つまり、単純に「地球温暖化」と言えないような複雑なメカニズムを地球は持っていて、僕たち人間はそれを解き明かせずにいるのです。

編集部:つまり「わからない」ということが南極の地で、さらによくわかった、と。

立松:そうなんです。かの道元が中国で禅を学んできて日本へ戻り、何を学んできたかを問われた際、「眼横鼻直」(がんのうびちょく)といったそうです。眼は横に鼻は縦についている、という意味のことですが、それはつまり、当り前のことを当たり前に学んできました、という意味ですね。僕の南極体験はまさにそういうものでした。

編集部:確かに、地球環境というテーマは簡単に語り尽くせるようなものではありませんが、私たち人間は今、そしてこれから、どのように地球と向き合い、付き合っていけば良いとお考えですか?

立松:まず僕たちがはっきり自覚しなければいけないことがひとつあると思います。最近よく、「地球に優しい」という言葉が使われていますが、地球は決して人間に優しくなんてないということです。地球は地球の時間を生きているだけで、人間の優しさになんか、地球は応えてはくれないという事実です。もちろん僕たち人間にとって、「温暖化防止」は取り組まなければならない課題であることは事実です。ただそれで、全てが済むと思ったらとんでもない誤解です。
最近の研究で分かったことです。10万年に一度気候の大変動がくり返され、その過程でたくさんの生物が死滅し、ある種族だけが新たな環境に適応し生き延びてきました。旧人類が滅びて、僕たち新人類に属するものが生まれたように。地球生命体説というものがありますが、まさに地球もひとつの「生命」であり、複雑怪奇なメカニズムで動いているのです。そのメカニズムを人間は解き明かしていません。

暑い、寒いと騒いだって地球上の寒い場所ではストーブがあれば生きられる、暑い場所でもパンツ一丁になればなんとかなります。地球とはそういうかけがえのない、その他の生命を許容してくれる環境なのです。太陽系の一番地球に近い惑星である金星はとてつもない高熱でとても人間が生きていける環境ではありません。火星だってとてつもない寒冷で地球で享受できるような生活をするのは困難でしょう。

気温も気圧もちょうどよく、水があり、酸素がある、そんな環境は地球以外に想定しづらいと思いませんか? 僕たちはここ、地球上で生きていくしかないことは明らかではないでしょうか? だからこそ、“この場所で生きること”をもっと真剣に考えなければいけない。もっと言えば、日本人は日本で、この土地で、生きられるように考えなくてはいけないと僕は考えています。私たちはもっと“慎みのある生き方”を実践しなければいけないのではないでしょうか?

作家 立松和平さん インタビュー

 

back パート1