編集部:立松さんは2006年、南極へ実際に行かれています。それ以前も様々な場所へ旅をなさっているかと思いますが、「極地」と呼ばれる南極へ実際に立ち入った率直な感想はいかがでしたか?
立松:南極へ行ってみて、何が一番気持ちよかったと思いますか? それは貨幣がなかったこと! お金が要らないことです。南極にはお店もないし、そもそも国家というものが存在しません。だから貨幣があったとしても、その価値の保障ができない場所なんです。唯一お金を使ったのは、昭和基地に郵便局があって、記念切手が売っていたのでそれを何枚か買っただけです(笑)。
僕はノルウェーのトロール基地という、オーストラリアから飛行機が運航している基地から南極に入りました。そこでまず、彼ら(ノルウェー人)にとってのご馳走であるトナカイのステーキを基地の人と交じってご馳走になり、その後立ち寄ったロシアのノボラザレフスカヤ基地という宿場町のような基地では、お金を払うでもなく泊めてもらい、「ボルシチ」をいただきました。ちなみに、日本の昭和基地では外国人に対し「ウナ丼」がでます(笑)。それぞれの基地が旅人に自国の自慢料理を振る舞う、すごく気持ちが通い合うふるまいですよね。
編集部:南極は地球環境の実情を判断する上での最前線基地のひとつとも云われていますが、何か特別に感じられたことありましたか?
立松:南極で僕が感じた一番のことは、「わからない」という事実の多さです。僕たち人間は地球のことを実はあまり分かっていないのだということを改めて知りました。南極には世界中からたくさんの研究者が集まり、地球環境に関する様々な研究をし、それなりの成果を出しています。しかし、地球温暖化についても科学的に証明できないことが実に多いのです。
たとえば、南極の氷(氷床)の厚さは平均して1,856メートル、最大で4,000メートルほどあり、ほとんどは淡水で出来ているそうです。それは雪が降り積もり千年たつと圧力によって氷になるということで、塩分を含んだ海水が凍る温度と淡水のそれとは全然違いますから、なかなか凍りません。海水が凍ってゆく時は、淡水部分のみが徐々に凍りますので、塩分は排出され海底に沈みます。その沈む力と沈んだ塩分が深い海底において、すでにあるものを突き動かすとされていて、この意外な力が地球全体の海流の駆動力になっていると云われています。それが、南極の温暖化によって多くの氷が溶け出すことで、氷となっていた淡水が海に溶け出し、海水の塩分濃度が薄くしてしまうのです。