編集部:造船技術は非常に成熟した産業分野という印象があり、重厚長大というイメージからその生産の場が既に海外へ移ってしまっているのではないかと理解していただけに、日本がその後も世界のトップランナーのひとりとして走っているというお話は非常に元気が出ました。またその技術の特殊性ということだけではなく、“船”に課せられた使命と役割を業界全体が正しく受けとめ、無駄な競合をすることなく、その他の輸送手段との棲み分けをしていることに感銘をうけました。“未来の地球にいいことをする”、その選択や判断にも非常に興味深いお話しでした。
松本:それは良かった。船は太古からある乗り物でありながら、実は非常にデリケートな環境で動くものであることはご存知ですか? 船は水の中を進んでいるのではなく、水と空気の境界線を走っているという事実です。飛行機は空気抵抗、車も空気抵抗と少しの路面摩擦、それに比べて船の開発において、考慮し、計算しなければならない要素は非常に多いのです。つまりバリエーションの広い、外的影響の下でその機能を発揮しているのが特徴です。 また、ほとんどの物資が船で運ばれているのが現実です。エネルギーを筆頭に我々の生活を支えているほとんどのものが船舶輸送の恩恵を受けています。ただ、従来はあまり我々も一般の方々に向かってそういったことを説明してこなかったこともあり、ほとんどの方が船舶輸送を遠い存在としてしか認知していない現実があります。
荷を受けて目的地に運ぶ、つまりB to Bの企業ですから、どうしても一般の方々向けに発信するベクトルというものをあまり持ち合わせていなかったのですね。 しかし、だからこそ、しっかりと自分の立場をわきまえて堅実なモノづくりができてきたとも言えると思っています。世界が完結し、機能重視型であり、客観的な指標が強く、一般市場の動向を追うようなことはほとんどないからです。
今回の「しらせ」は砕氷、物流、ヘリコプター空輸、観測装置など大変多機能で期待されているところが多い船です。そのような船の設計と製造に携わることができるのは大変やりがいのあることです。まずモノ、人間を的確に運ぶということを第一のゴールにしながらも、この船は“ひとつの世界を維持する”べく、あらゆるトラブルに対処し、“自分の力でなんとかする”自助自立が求められるのです。「極地に行く」というのはそういった覚悟と自覚が求められるのではないでしょうか?
2009年10月15日 ユニバーサル造船株式会社(JFEグループ)にてインタビュー