通常の客船に比べてもどっしりとした安定感のある船体。真っ白な南極の海でもオレンジのボディーカラーがひときわ映えるだろう。南極の氷の海で船体が海氷と接触する部分にはステンレスクラッド鋼を使用し、摩擦抵抗が低減される設計になっている。
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船首の融雪用散水装置。散水しながら氷を砕くこのシステム、砕氷艦「しらせ」の自慢の設備だ。
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南極での荷下ろしにも大活躍する船首のデッキクレーン。デッキクレーンは船首と中部に2基ずつ設置されている。
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さて、いよいよ乗船。デッキの階段は足が掛けやすいようにステップが弧を描いているタイプ。斜めにかけられた階段は高所恐怖症の人にはちょっと怖い。
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「しらせ」は海上自衛隊が管轄する船舶。海上自衛隊の船は、「海上自衛隊の使用する船舶の名称を選出する標準について」(昭和56年施行)によって命名の由来が定められており、「しらせ」は昭和基地付近にある「白瀬氷河」に因んでつけられたそうだ。
乗艦者は正装のユニフォームを着用したクルーに迎えられる。実に気持ちのいい瞬間だ。
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メインデッキにあるクルーの組織表。顔写真入りの一覧表は実に明解。長い航海を共にする観測隊員、乗組員にとっても便利なシステムだ。

乗組員用の食堂の椅子。クルーは交代で食事を摂るため、椅子は定員の約3分の1しかない。船の家具は海が荒れた時に対処するべく、足元でしっかり固定されているか、使用しない時は机に椅子を収納できるようになっている。

艦内に設置されたエレベーター、普通のドアのような外観。最上階の05甲板から機関室のある2甲板までを繋いでいる。ちなみに船は上から下に05、04、03、02、01、1、2、3という階層になっている。

「しらせ」を操舵する艦橋。中央に操艦を行う当直士官が立ち、そして右側に艦長、左側に副長がそれぞれ席に着き、航海を進める。当然艦橋にはレーダーやデジタル式の海図などが装備されているが、航海時には目視見張りが重要だという。

「しらせ」には舵とプロペラが各2つついている。砕氷は連続砕氷、氷が厚くなると船体を前進、後進させながら砕氷するラミング(チャージング)砕氷がある。
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海上自衛隊の習わしによって儀式等の際にはラッパが使用される。起床、就寝ラッパのある陸上自衛隊に比べると、その回数ははるかに少ないそうだ。
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今回のしらせで大幅に改善されたのが気象システム。航海途中までは気象庁から天気図を入手するが、南極へ近づくと天気図がないため、自分たちで気象衛星などから直接情報を収集し、天気図を作成し、天候、波や風の状況を予報する。
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艦内には国際電話も完備されている。ただし、通話料が高いので恋人がいる隊員以外は節約のため使用頻度は少ないという。
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停電時に備え、廊下や階段など、いたるところに非常用の灯火(LEDランプ)が設置されている。
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航海中、乗組員たちは艦内の決められたランニングコース(甲板:全長138メートル)を走ったりし、気分転換や運動を行うが、基本的な筋力トレーニングができるマシンが揃ったジムもある。
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今回の「しらせ」には医師と歯科医、それぞれ1名が乗り組み、航海中の乗組員たちの健康を守る。医務室には手術台や歯科治療のための設備、ベッドなどが用意されている。今回の内科医と歯科医はいずれも女医さん!
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大型の荷物を続々と積載中。船倉から順々に上層に向かって船積みされていく。
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南極観測隊が使用する各種資材がコンテナにセットされて輸送される。今回はこのコンテナの導入によって、南極到着後の荷下ろし作業が大幅に軽減される予定だ。
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船の中で出たごみは自分たちで処理を行わなければならない。分別は徹底されており、廃棄物については「船舶からの廃棄物排出基準」というガイドラインが定められている。

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艦内にあるゴミ処理室には複数の処理機が並んでいた。カン、びんの処理機、燃えるゴミ用焼却炉、生ゴミ処理機、ライターと乾電池用のゴミ箱。
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船内には散髪室も。ただし、完全セルフサービス、器用かつ美的センスのあるクルーや観測隊員がこの任にあたるのだろうか。
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前進・後進を繰り返すような特徴的な動きが求められる「しらせ」のエンジンはディーゼル電気推進方式になっており、操縦室において24時間体制でチェックされている。
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船底に近いフロアには大きな木材が所々に積まれている。浸水が起きた際にこの木材をジャストサイズにカットし、浸水区画の扉を封鎖するなど浸水が艦内に広がらないようにする。ただし、船体は二重船殻構造になっており、万一に備えている。

観測隊員たちの居室。それぞれ二人部屋で、ベッドとデスク、洗面台、クローゼットが設備されている。
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船の後部にある広いデッキは飛行甲板(ヘリポート)になっている。南極到着後、昭和基地までの人員及び物資の一部の輸送はヘリコプターによって行われる。

積載荷物の60%は燃料とのこと。南極でも使用可能な低温燃料が大量に運び込まれていた。このドラム缶は雪上車用の燃料で基地用の燃料は艦内の燃料タンクにあり昭和基地に接岸するとパイプラインで直接基地のタンクに輸送するそうだ。
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「しらせ」は、例年、8月から10月の間に、乗員の訓練を兼ねて日本各地を訪問航海し、寄港した港で一般公開も行なわれます。白一色の真っ白な世界、南極において周囲から識別できるようにと選ばれた「アラートオレンジ」というオレンジカラーを身に纏い、南半球が夏を迎えている間に昭和基地へと向かう「しらせ」。今年は2009年11月10日に南極へ向け、出航しました。現在どのあたりを航行中かは、南極観測のホームページ内の「進め! しらせ」にて確認することができます。パート2ではこの「しらせ」を実際に造ったユニバーサル造船の工学博士、松本光一郎さんにお話をうかがいます。