編集部:ところで世界というスケールで見た時、日本の造船技術というのはどのような位置にあるのでしょうか?
松本:優れた砕氷技術をもっている北欧諸国も含め、日本はトップクラスのひとつに数えられていることは間違いないと思います。一般船舶についても、燃費性能や省エネ技術などでは同じく世界でトップです。現在の造船の国別シェアに関して言えば、韓国、中国、日本の三か国で世界の80数パーセントを占めています。10年前は日本が1位でしたが、いまは韓国がトップ。将来的には中国が1位になる可能性があるとも言われています。
編集部:熾烈な国際競争の中で日本の造船が勝てる見込みはあるのでしょうか?
松本:さきほどお話をしたように海洋におけるCO2の排出規制なども今後は随時定められていくでしょう。そういう意味からも環境に配慮された技術で勝負し、今後共その優位性を保っていきたいと思っています。環境技術という分野においての日本の技術と開発力、データの集積は、追い風になるはずです。また、船というのは自然エネルギーを活用しやすい環境で動いていますから、代替エネルギーについても目下研究中です。風力や波、太陽光などの力には大いに期待を寄せています。
ただ正直なところ、今後の省エネ目標達成となると、かなりハードルが高いというのも実情です。1970年代のオイルショックをきっかけにして、日本の造船業界は生き残りのために自主的に30〜40%の省エネ技術を開発しました。船型をきれいにするとかそういった効率性はすでにかなり進んでおり、今後その差別化がかなり難しくなるだろうと考えています。
編集部:ちなみに船舶業界において、“船を速く走らせる”というトレンドはあるのですか?
松本:今はありませんね。高速船というものも存在はしますし、かつて高速船の開発を積極的にしていたこともありますが、結局は運航コストに見合ったニーズがないため停滞しています。スピードについては飛行機に譲ってしまっても、船は大量にモノを運べるというメリットがありますから、それぞれの立ち位置でうまく二極化されているのではないでしょうか。