携帯電話をリサイクルすべき理由には大きく二つが考えられるでしょう。まずひとつ目、中国等の海外へ使用済み携帯電話の基板類が流出し、基板に含まれているガリウムヒ素、鉛などが不適切に処理されることによって、広範囲にわたる環境汚染を招くというリスクがあること。もう一つは、携帯電話の中には多量の金*1が含まれています。つまりこれは資源価値(プレミアム)が流出していることを意味します。さらに、金以外にもパラジウム等の稀少金属が膨大に含まれている資源が安易に海外へ流出してしまうのは膨大な資源の損失でもあるという点です。
それでは、資源価値があることについては皆さん異存がないはずの携帯電話のリサイクルの効果に疑いの目が向けられ、何故着実に進んでいかないのか?
それはリサイクルというプロセスにおいて、いかにうまく集めるかという「経済システム」が成り立っていないからです。つまり、天然に産出する鉱石を採取し、そこから“密”にある金属資源を抽出し、精錬し、それを消費者に渡すというシステムには社会が慣れていても、どのタイミングで、どの量が廃棄されるのかが予測しづらい、疎に発生するモノを集めるシステムに、私たちは慣れていないのです。
リサイクルの意味を社会全体が評価し、その効率を上げてゆくには、“回収”が一番の問題になるのです。家電リサイクルが近年うまくいっているのは、その対象となる“モノ”を原則「配送品」に限定し、既存の流通経路の逆方向の流れにきちんと組み込むことができたことがポイントでしょう。こう考えてくると、携帯電話は運ぶコストがかからないそのコンパクトなモバイル性がかえって妨げになっているのです。大きくて重い家電やオフィス機器とは一線を画す、歴然たる違いがここにあるのです。
一方、あるイベントで参加者である若い人たちから携帯電話をまとめて回収する、という試みがありましたが、これは逆にモバイルであるからこそ実現できるメリットでしょう。つまり“回収というプロセス”の効率を上げるには、モノの大きさ、性質、流通形態によって全く異なってくるのです。それぞれの資源をどのようにリサイクルというシステムにつなげてゆくか?ゴールに辿り着くには、モノの性質を精査し、その特性を利用し、丁寧に静脈の物流をつなぎ合わせることが大きなポイントとなるでしょう。
*1・・・総務省「情報通信分野におけるエコロジー対応に関する研究会」第六回(2009年4月3日開催)公開資料(6月2日発表):資料77によると、携帯電話本体(電池を除く) 80gあたりに含まれる金の含有量は、0.032g(0.04%)となる。1tあたりに換算すると400gの金が含まれていることになり、世界で最も金品位の高い菱刈鉱山(鹿児島県)の平均が50 〜 60g / tであることを考えると、携帯電話には大変豊富な金が含有されていることが分かる。