原田幸明さんインタビュー:第3章

 

原田幸明さん

 

先生は20世紀から21世紀への移行を経て、今世紀はどんな価値観が物事を左右する座標軸になっていくとお考えですか?

20世紀末に注目を集めた価値観に「効率」、そして「豪華さ」があると思います。まず、僕たちはこの20世紀的な価値観からの脱却が大きな課題となるでしょう。
たとえば、「太陽電池」を考えてみてください。太陽電池のエネルギーの変換効率というのは現在約18%で、さらなる効率を目指して開発が進んでいます。しかし、同じく太陽光をエネルギーに変えている「光合成」は約0.5%の変換効率しかありません。人間は当然18%の方がいいと思っていますが、地球システムは0.5%を選んでいる事実をどう考えますか? そこにわれわれの価値観の落とし穴があると言えるのではないでしょうか?
効率至上主義の時代はすでに終わりへ向かっています。これからの私たちは新しいパラメーターを考えて、それを自己表現できるようにならなければいけない。たとえば「そばにいてくれるだけでいい」というような、あるだけで幸せを感じるような価値観を選べる人が増えるのも一つでしょう。そういった多様性を認め、どうやったら効率概念に勝る価値観を見出すか。そんな発想こそが世の中を変えることになるんじゃないかと、僕は思っています。
サービスサイジングという考え方を普及させるには、そういうことを考えている企業を私たち市民が選択し、「私はサービスサイジングを選んでいます」という宣言するようにアクションを起こすことが必要なのです。そしてこれは、一般市民だけができる、ものごとを前に進めるアクションではないでしょうか?

 

未来を支える子供たちに対する環境教育についてはどうお考えですか?

現在、行われている環境教育というものに、私は納得していません。大人ができなかったことを子供たちにそのツケを押しつけ、自分たちは逃げているようにしか思えないからです。子供たち、つまり若い世代こそが現在に、そして未来の環境に、我々大人以上にコミットしているわけです。ですから、子供たちに大人が教育してもらわなければいけないくらいだと思います。大人にとっての自然環境、たとえば“メダカがいる”、“鳥の鳴き声がする”、そういった感覚は、現代の子供たちにとってのケータイの音を聞く感覚と何ら変わりはないかもしれないのです。むしろ、そういう現代感覚を備えることが、現在起きている事態に対して有効な解決の糸口になると僕は考えています。一体これはどうなっているのだろうか? 大人たちはもっと現実に目を向けて、問題を向き合う姿勢が必要なのではないでしょうか?

都市鉱山という話題がウケるのも、実は同じことだと僕は思っています。今の人たちにとってみれば、身の周りのモノにリサイクルできる有効な資源があるという事実は、山の中のモノを掘って資源が出てくるのと、同じ感覚なわけです。自分の生活環境の中での発見をどう発展させ、個別の事象をリンクさせる作業の方がはるかに現実的です。
その時に自分の目の前のことだけじゃなくて、同時代に生きている人や同時代に在る他の場所へ想いを馳せ、“幸せの価値観”について、真剣に自分に問い直すことができるのではないかと思います。大人は子供たちの生きる未来の時間を配慮し、子供と共に学び続けなければいけないのでしょうね。



(2009年2月3日 つくば 物質・材料研究機構 材料ラボ 研究室にてインタビュー取材)

*編集後記をecobeing ブログ「ecolog」に掲載しております! ぜひご覧ください!