岡本峰雄さんインタビュー:第2部

 

近年、サンゴの激減を世界各地から知らせるニュースが届いていますが、実際の状況はいかがでしょうか?

写真:岡本峰雄先生

1998年という年が世界中でサンゴの白化現象が報告され、この問題の契機になりました。南半球は1997年から、地球全体では翌1998年からサンゴが白くなって、次から次へと死んでいったのです。この白化現象は僕たちにとって二重の意味でショッキングな出来事でした。
「地球温暖化」という問題は1970年代から一部で騒がれ出し、特定の海域で小規模ながら白化は起きていました。しかし、その原因が地球温暖化に因るものだなんてことはあまり信じられていませんでした。ところが、1998年に世界中で多くの観測者によってサンゴの白化が報告され、地球規模で水温が上昇したことが明らかになり、地球温暖化の影響であることが初めて世界の共通認識となりました。地球温暖化の影響による最初の被害者がサンゴだったのです。そのことから大きな災難を予告するカナリア(*2)になぞらえて、サンゴは「海のカナリア」と呼ばれています。サンゴは一度海底についたらそこで育つしかありません。サンゴは赤土の流入や陸からの栄養塩類による富栄養化でも被害を受けます。でもそれはローカルな問題で、解決はそんなに難しい問題ではありません。地球規模でサンゴの異常が観測された現在、もう海はサンゴが安全に生活できる環境ではなくなったと言えます。サンゴはまさに地球環境変動の生物指標と言えます。

さらに追い討ちをかけるようにショッキングだったのは、この1998年の白化現象によって、サンゴ絶滅のシナリオすら囁かれるようになってしまったことです。それまでも、海洋汚染によってサンゴが死んだり、オニヒトデのような外敵によって死んだりしていたのですが、少なくとも10年もすれば元通りに再生していました。当時の研究者達の常識で言えば、6年から7年でサンゴは再生可能というのが通説でしたが、世界中の各海域から報告される白化現象は、サンゴの自力再生を超える規模で、かつ急速に進行してしまったとことを示す厳然たる事実です。

1999年 フロリダ キーラルゴ沖のサンゴ礁 1999年 フロリダ キーラルゴ沖のサンゴ礁

1999年フロリダキーラルゴ沖のサンゴ礁。1980年代に藻場に変化。

注釈(*2)…昔から石炭掘りたちはカゴに入れたカナリアを連れて炭鉱へ入ったといわれている。これは有毒ガスが噴出し、炭鉱夫たちに危険が及ぼうとする時、毒物へ敏感なカナリアが囀り泣くため。

 

地球温暖化による影響というのは、具体的には何が原因なのでしょうか?

この劇的なまでのサンゴ壊滅という非常事態を引き起こしたのは、地球温暖化の影響で海水温が上昇したことが主たる原因です。海水温というのは元来そんなに変動しないものなんです。それに元々、海水温は大気温と比べて変化しにくい傾向があります。しかし、1950年から冬場と夏場の海水温を記録したデータを分析すると、近年に向かって、夏場に上った水温が冬になっても下がらなくなってくるのがわかります。最低水温自体が上がってしまったのです。一度棲みついた場所から動くことができないサンゴにとって、水温が1℃でも上がるということは大変なことです。人間でも体温が1℃上がると大変ですよね? それと同じです。

さらに過去のデータをよく見てみると、目立って水温の高い年というのがあります。沖縄海域のサンゴは29.9℃で白化するというデータがあったため、30℃を超えた日数および30℃以上の温度だけを累積してみたら、その異常さがよくわかりました。今まで平均水温が30℃まで上がるなんてことはめったになかったのですが、1998年にこの非常事態が起こり、その後2001年、2003年、2007年と立て続けに水温上昇が観測されています。また同時に、この高温化の周期の短さも問題になっています。さきほども申し上げましたが、サンゴが自力で再生する上で必要な年数である6年から7年という猶予期間を確保することなく、白化現象を引き起こす異常な高温状態が次々と続いているのです。

1999年フロリダ。キーラルゴ沖サン
2001年 沖縄本部沖水納島

2001年 沖縄本部沖水納島 1998年の白化で死滅した珊瑚礁は再生していない状態。

2006年 石西礁湖

2006年 石西礁湖 ガレキ化した枝サンゴが数キロ四方に広がる。

2007年9月 石西礁湖南部

2007年9月 石西礁湖南部 今まで3度の白化に耐えたサンゴが白化で全滅。