*1 この綿毛が飛びちるさまは「柳絮(りゅうじょ)」と呼ばれ、ヤナギ科の植物の特徴です。ポプラの種子は綿毛に包まれて風に飛ばされていきます。
*2 「実生(みしょう)」とは、接ぎ木や挿し木に対して、種から成長した草木のことをいいます。 |
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編集部: |
富良野自然塾の環境学習プログラムについて伺えますか?「目隠しで森を歩くカリキュラム」は、ドイツのそれをモデルに実施されているそうですね。
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倉 本: |
僕自身がドイツであのプログラムを体験し、採用しました。歩く距離はドイツもここもほぼ同じです。ただ、ドイツでは体験カリキュラムの種類がもっとたくさんあって、僕が見学したところでは市や町が環境教育の一環として位置づけ、子供たちにはこのカリキュラムの受講がほぼ義務づけられていました。
町の中心部にこうした環境保全に関わる施設があり、多くの子供たちが来ていました。町の名は正確には覚えていませんが、フランクフルト近郊だったと記憶しています。果樹園の跡地を州政府が買い取って自然学校を作ったケースでした。富良野の場合は、ご承知のようにゴルフ場跡地です。
富良野自然塾も、最近はいろんな機関が注目してくれるようになりました。幼稚園と保育園の協会が種から苗を作り、それを植えるということに着目し、今年の秋から「子どもの森づくり運動」を始めることになっています。6月にはグループで富良野にやってきて、運動スタートに向け、いよいよ本格的に準備に入ります。でも、こういう活動は都会でもできると僕は思います。35ヘクタールもあると、植えるだけでものすごく時間がかかります。都会だって、その気になって土地を探せば、候補地はいっぱい出てくるはずです。
植樹のプロセスですが、まず木の種を拾い集め、畑に植え、そこから発芽させて、小さな苗になるまでに育てます。そして苗の根っこがしっかりしてきたら、ポットに植え替えて、ようやく地面に植える。今年は植樹用の苗木を3000本くらい作りました。でも森の樹木たちも自分の力でいっぱい種を蒔いています。草がボーボーに生えているところに落ちた種はダメですけど、耕してあった場所とか、車の轍などに着床したやつは全部芽が出てきます。この季節は「柳絮」(リュウジョ*1)っていう白い綿毛が森の中ではたくさん飛んでるでしょう? これはドロの木と言って、ポプラ系の木ですけど、こうやって種を空中に飛ばしているんです。この綿毛は落ちたところで根を張り、種から芽が出て、苗へと育っていくんです。この自然の種蒔きで出た若芽を「実生」(ミショウ*2)っていうんですけど、今年はずいぶん実生が出来ています。条件のいい実生はそのままほっときますが、悪い条件の実生はポットに移して、然るべき場所に植え替えてやるんです。僕らは今、15万本の苗木を植えようと計画しているんだけれど、15万の苗を実際に植えたら30万にも45万にもなると思うんです。さらには植えた木がまた種を落とす。さらには植えた木がまた種を落とす。これが上手く回りだしたら森の葉っぱは鼠算的に増えていくはずです。
ところで、この「実生」ですが、都会でもちゃんとあるんですよ。気づかない人が多いだけで、道端のあちこちの狭い地面で、木々の種は実生を生んでいます。ただそれを「都会風の価値観」では汚いということになり、全部刈られちゃうんです。ゴルフ場でもこれと同様のことが起こり、邪魔だからということで、全部刈り取られていました。ところが、種って奴は地面に落ちた翌年にはさっさと芽を出すわけではなくって、8年間も芽を出さない気長な種もあるんです。でも、そんな奴はまず根を張ってから芽を出すので、しっかりした実生に育ってくれます。種は栄養分の多い表土を狙って、横に浅く根を張り、その後、茎を支えるために「直根」と言って地下にまっすぐ伸びる根を伸ばしていくんです。大地に根付くための直根と栄養補給の浅い根の両方がうまくバランスをとることで、木は育っていくわけです。
今、富良野の森を飛んでいる綿毛「柳絮」は主にドロの木、ポプラ、そして楊柳(カワヤナギ)の種です。これらが森のあちこちで実生を作り、全部が木になるわけです。あそこに見えるのは、ヤマナラシの一種。ご覧のようにその種の量たるや膨大なものですが、実生から成木として育っていけるのは、ほんの何パーセントに過ぎません。
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