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■第二章 今、川崎で起こっていること
編集部:
今、川崎では一体何が起こっているのですか?

藤田:
まず一番目の例をあげれば、出てきたゴミを循環させるために、“モノ”を生産する企業のシステムまでも循環型に変えてしまおうという発想なのです。当然企業によっては“モノ”を生産するシステムはそれぞれ異なります。でもその生産プロセスのひとつひとつを見直し、よりクリーンな方法での生産を実現するシステムを開発するのです。この手法を“クリーナー・プロダクション”と呼びます。一つ一つの企業のシステムがさらに発展して、ある企業から出た廃棄物を別の企業の原料として再使用するような地域ぐるみの取り組みを【産業共生】と呼んでいます。川崎ではまさに、多くの企業の循環型の試みが相互に共鳴して新しいタイプの産業の形が生まれつつあります。このように多面的な角度で社会を見つめ、改善し、都市や地域のスケールで循環のネットワークを構築することで、暮らしの快適さや便利さを損なうことなく循環型の社会を作ることが【産業共生】です。

編集部:
企業を含む街全体を精密検査して、包括的に問題を解決する姿勢ですね。

藤田:
生産や廃棄物処理の一箇所にだけに配慮するのではなく、都市や日本がよりよい方向に改善されるような方法論を考えて、必要なコストの関係を考慮した適切なアプローチを選ぶことによって、最終的には地球環境全体の抱える問題を総合的に解決へと向わせるシステムづくりをしようというわけです。
川崎エコタウンはそういう意味で新しい視点“循環”という理念を核に都市のより良いあり方を考える事業といえるでしょうね。

編集部:
“より良い”という表現ですが、どのような意味でしょうか?

藤田:
ご承知のように環境問題は一挙に解決できる訳ではありません。
生活者の目線で言えば、日常的に無理なくできる対策を着実に積み上げることが大切なのです。小さなことでも継続して実行することで、その成果がじわじわと表れるものです。そうした意味で、私たち研究者の目には川崎はポジティブな展開を期待できる十分なポテンシャルを感じるのです。

私たちがまず川崎エコタウン事業で着手したのは、企業グループの方々と連携し、そのグループが保有する個別のデータをチームとして共有化することでした。私たちが目指す循環型のエコタウンの基本理念は“Win・Win”です。
環境と経済が両立し、健全な社会の発展が今後も展望できる“まち”の姿です。産業革命以後の環境問題と言えば、人間社会が豊かさと利便性を優先させるあまり、環境に過剰な負荷をかけ、貴重な自然環境を破壊してしまった歴史があります。
でも、その反省として起こった環境保護の動きの中で、人間生活や現代社会そのものまでも否定するようなレベルまで行ってしまったら、これは少々行き過ぎではないかと考えます。“未来を切り拓く豊かさとクリーンな環境は、健全な経済発展によって支えられる”という現実を忘れてはいけないのではないでしょうか?

京浜臨海部環境シティ構想(川崎エコタウンエリア)

社会システムを支える経済基盤および企業活動に過剰な負荷がかかり、エコタウン事業の運営までも圧迫してしまうようでは、環境との共生を目標に掲げる計画そのものの意味が無くなりかねません。

CO2対策や温暖化防止、ゴミ問題などは、なによりも根本的な解決に向う様々なアクションを粛々と継続することが大切なのです。効率の追求と無理のない方法を徹底的に研究し、それをコミュニティー全体で確実に実行しつづける姿勢こそが“まずありき”ではないか、と私は思います。

グローバルに環境を改善させるための時間的なスパンはご承知のように、中・長期の視野に立つ姿勢が求められます。5年、10年、50年、こうした時間の流れを自覚し、地道な活動をし続けいくにはそこには経済の基盤がなければいけません。一般生活者が環境に優しいライフスタイルをする経済力、彼らに職を安定的に提供できる企業、環境活動に税金を使える行政、繰り返すようですが、すべてのベースに《Win・Win》の思想がないと成り立たないのです。

持続可能な社会、(Sustainable Society)を実現するには、環境と産業が両立して初めて可能となのです。長く無理なく継続できるインフラがあってこそ、環境と産業との双方向の健全なコミュニケーションが成立すると私は思うのです。
ですから継続可能な循環社会を作り上げるには、無理のないメカニズムが根底にないと、本来の方向性にたどり着けない短期的なヴィジョンに終わってしまうのです。納税者である市民、自治体、企業、それぞれの負担、正確には社会的な責任としての役割分担を納得できるバランスで成立させるべきだというのが、私の考えでもあります。
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▼PAGE1/“End of Pipe”(=末端処理技術)から循環型へ
▼PAGE2/今、川崎で起こっていること    
▼PAGE3/100年のスパンで都市をデザインする
▼PAGE4/価値を生み続ける都市