エコピープル|レポート10:岡山大学教授・農学博士 景山詳弘さん エコピープル|レポート10:岡山大学教授・農学博士 景山詳弘さん


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万物は土から生じて、土に帰る


Q.土壌の大切さが話題に上りました。
これは、リバーエコ炭にも大いに関係するお話ですね。

A.「すべてのものは土に帰る」。私はそう思っています。学生にもそう言っているんですが、ときにペンチまで土に返す学生がいて、「おいおい、そんなものまで土に返すなよ」なんていっているんですけれどね(笑)。
 しかし、鉄も土に帰っていきます。そういう見方で言えば、都市のごみも土に帰るでしょうね。あるいは、土に帰すのがもっともいい、正しい方法かもしれません。
 逆に、すべてものは土から生じているんですよ。それは植物のお陰。地球上の無機物を有機物に変えることができるのは、植物だけです。そして、その植物が拠って立つのは土なのです。
 土の成り立ちを考えると、一番初めはマグマなどからできた岩石でしょうね。地球は稀有な星であると言われるように水があったために、水の力や風の力で、岩石が小さなつぶ状になっていきました。
 しかし、土壌は岩石のつぶだけではないんです。土壌化作用というのがありまして、そこに植物が定着することによって有機物が入ってくるんですね。岩石と植物や動物の死骸が混ざり合って、土壌ができてくるんです。また、この土壌があったからこそ植物が繁栄できたわけですし、動物が生きていくことができました。まさに、万物は土から生まれているわけです。
 だから、ごみも円満に土に帰してやることです。土は有機物と無機物が混ざってできていますから、ごみを有機物として戻してやるのが一番いいと思います。都市のごみを燃やせば無機物になります。折角作った有機物を人間が無機物にして戻してしまうのではなく、有機物として戻すという考え方です。
 堆肥がそうですね。植物を微生物の力で分解させて、作物栽培のときに土に戻すということをやっているわけですね。これはリサイクルです。僕は石川英輔先生が大好きで、本もたくさん読んでいます。石川先生の考えに大賛成で、僕もずっと前から、江戸時代にリサイクルの智恵があると考えていたんです。「籠に載る人、担ぐ人、わらじを作る人、破れたわらじを拾う人」で、破れたわらじを焼かずに土に戻した。わらじは分解されて土に帰るんですね。そういう智恵が江戸時代にはすでにあったんです。ここに、江戸時代の農業技術書があります。元禄10(1697)年のものです。宮崎安貞の『農業全書』。11巻のシリーズです。しかも、この本は元禄版と天明再版本(1780年代)を合わせて、全部で3000部くらい刷られたと

秘蔵の「農業全書」

いうのですから、当時の大ベストセラーですね。「土に帰す」という話は、この本の中にも載っています。宮崎安貞は、福岡の人でもともとは武士だったようです。全国を足で歩いて調査しました。貝原益軒が序文を書いているんですよ。農業を哲学としてとらえ、農業は国のもとであり、農業があるから国が立つのだ、と。農業について十分に知らなければならないのだと、あります。日本に、農業の書は他にもあるのですが、それらは大体農政の書。藩でどのように農業を治めるかといったことが書かれたものです。純粋な技術書は、この本が最初なんです。
 これがすごいのは、絵で米つくり農業のすべての工程が描かれているということです。(それから、菜っ葉の類の項を見ましょうか。ほら、大根の絵が描いてあるでしょう。各作物の育て方などが絵入りで説明されます。実にわかりやすいでしょう。
 この本は木版なんですが、浮世絵の版画技術の発達で、全国に普及していくんですね。まあ、すべての人が手に入れることはできないでしょうから、村の庄屋さんなん
かが買って、村人に読んできかせたりしたのではないでしょうか。
 リサイクルの理念も書かれています。肥料のやり方なんかもね。子供に、「よそで遊んでいても小便をするときは家に帰ってしなさい」と教えたりね(笑)。お風呂の水も洗い物の水も溜めて全部、田畑に撒きなさいとかね。
 僕が日本の水田農業にサスティナブル・アグリカルチャーの原点があるというのは、こういう考え方にも拠っているんですけれどね。今、この本にある哲学を現代に生かす道を考えなければならないですね。>>次のページ


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