Yoshihiro Kageyama
1939年岡山県生まれ。64年岡山大学農学部園芸学科卒業。同年より岡山県農業改良普及員。米の減反政策が始まる70年まで、野菜の専門普及員としてバイクで農業の現場を駆け回る。そして、同70年より岡山大学農学部助手に。83年トマトの水耕栽培に関する研究で農学博士(京都大学)取得。86年6月から1年3ヶ月間、国際協力事業団(JICA)の海外派遣農業専門家として、JICAアルゼンチン園芸試験場に滞在。南米における花卉園芸生産に関する研究を行い、アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイの日系花卉農家の指導に四輪車で駆け回る。95年より岡山大学教授。研究テーマは、園芸作物の栄養管理に関する生産学的研究。共著に『農業技術大系 花卉編』(農文協刊)ほかがある。
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8月某日。岡山に降り立ちました。真夏の太陽がジリジリと照りつける中、どんな渇水の時にも涸れることがないという旭川はたっぷりとした水を湛え、市内を悠々と流れて行きます。時折、白鷺が川面に舞い降ります。瑞々しい白桃やマスカットで知られる岡山県は、実におおらかで風光明媚です。
さて、岡山駅から車で10分ほどの岡山大学・津島キャンパス。ここに、景山詳弘教授の研究室と実験室があります。広大な緑深きキャンパスで農学部棟を探し当て、研究室の前に立ちます。「やあ、私が景山です」振り向くと、先生が笑っておられました。編集部を迎えるため、農学部棟の玄関まで出ていてくださったのでした。
●ここで、あらかじめリバーエコ炭について説明しておきましょう。
リバーエコ炭。これは、川鉄式RDF炭化システムによって作られる、“燃料化したゴミ”を特殊な炉で乾留した炭化材です。 RDFについては、eco wordの「技術関連」にある「ゴミ固形燃料(RDF)」の項目をチェック! 高温で炭化するので、ダイオキシンは除去されていますし、RDFより体積・重量が減るため、輸送費が1/4に減少。屋外保管も可能です。 製鉄所内での利用もさることながら、最近話題の「炭化材」であることに注目して、土壌改良ほか、さまざまな利用を研究している最中です。
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―――そして、景山教授は、このリバーエコ炭を混ぜた土壌で、どんな植物が、どんな風に育つかの実験に取り組まれたのです。
Q.リバーエコ炭の実験について伺う前に、先生のご専門についてお聞かせください。「花卉園芸学」というのは、どういう学問なんでしょう。
A.そう……。「花卉(かき)」っていうのが、難しい言葉なんですよね。この学問は昭和の初め頃に興ったのですが、その際に学界の2人の権威が、それぞれに名前を考案したそうです。ひとつが「花卉学」。そして、もうひとつが「鑑賞植物学」です。結局、前者の難しい方に決まってしまったんですね。でも、後者なら何となくイメージが沸くでしょう。つまり、食べるのではなく、鑑賞する植物を対象にした学問です。ただ、僕たちは「植物」と「作物」という言葉を区別して使います。植物は自然に生育しているものですが、作物というのは人間が利用するために栽培するものです。栽培、英語ではCultureですね。ちなみにこの単語には「文化」という意味もあります。つまり、人間がある目的を持って栽培する植物のことを作物というんです。ですから、正確に言えば、僕が対象にしているのは、「鑑賞園芸作物」なんですね。その中でも僕は、特に栄養学が専門です。例えばバラを育てるときに、いつ、どんなタイミングで、どんな肥料を与えたら、バラがもっとも元気に美しく育つか、そういったことを実験を繰り返しながら、つかんでいくのです。
Q.「人間がある目的を持って栽培する」と言った場合、その目的とは経済活動になるのでしょうか。
A.いいえ、経済活動だけではないですよ。作物を育てること、すなわち農業は非常に多面的な役割を持っています。売り買いといった経済的な目的だけではなく、その文化的な側面、教育的な側面が見直されてきてもいます。また、国土保全も担っていますね。雨量の多い日本では、水田がダムの役割を果たしているんです。10年前のデータでは、日本中全部のダムの貯水量を合わせると25億トン、日本中の水田の貯水量を合わせると51億トンでした。実に、倍以上なんですね。農業は、もちろん自然と関わっています。特に私は、近年とかく注目されているバイオテクノロジーとか、試験管の中の実験ではなく、農業生産の技術開発にこだわって研究をしていますから、環境問題も考えずにはおかないですよね。学生たちにもそういう教育を行っています。
Q.現代の農業は、一方で水田が破壊されたり、一方で棚田の復活などが叫ばれたりと、かなりアンビバレントな状況にあるのではないでしょうか。
A.本当に根の深い問題です。今年は約40%の減反が言われています。この猛暑で米が豊作であったために、「米が余る」というので、青田刈りも実施されました。こんな状況に関して僕は、涙が出るような思いです。
Q.けれども、政治家たちは「米余り」「減反」を盛んに訴えています。
A.米は余っていないんですよ。分配が悪いだけでしょう。飢えに苦しんでいる国はたくさんある。日本だけが飽食だと言っているわけです。経済問題として捉えるから、分け方がまずくなるのではないでしょうか。米を船に積んで、発展途上国に持っていくというのは、ちっとももうからないですからね。
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炎天下の実験用ビニールハウス内の気温を上限の45℃に保つために大形扇風機が備え付けられている |
世界全体では見れば、間違いなく食糧不足です。人口も60億を超えましたね。このままの勢いでいけば、2025年には100億人に達すると言われています。現時点でさえ60億の人口を養っていないというのに。でも、残飯が年間何百万トンも出る日本では、「飽食だ」などと言って、見事に育った稲を青いままに刈り取ったりするわけです。
つまり、これは経済の問題ではないですね。違う捉え方をしないと解決の糸口を見出すことができないのではないかと、思います。
減反なんかせずに、作ればいいと僕は思っています。日本では年間1000万トンの米が必要であると言われてきました。減反政策が始まる1970年代前後では、1200万トン採れたんです。さらに、近年は米の消費が減りましたから、おそらく年間700万トンあればいいでしょう。一方で、日本の技術をもってすれば、年間1200万トンをコンスタントに生産することは可能です。これを「米余り」と言っているわけですね。国際分業論を打ち上げ、内需拡大による輸入志向型への構造転換を説いた前川リポートが提出されたのが1986年4月。この考え方でいけば、食糧は他国から輸入すべきで、国内消費量より多い米は「余っている」ことになるのです。でも、世界全体で言えば、余っているわけではない。足りないところに持っていく、という話には、なぜならないんでしょうね。
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