エコピープル|レポート09:宇津木浩一さん


「良心」だけが頼りのフロン回収

Q. 宇津木さんはご自分でフロン回収機の試作を続けていらっしゃるんですね。

はい、95年には特許も取得しました。市販されている回収機では半分くらいの量のフロンしか回収できないんですよ。家庭用冷蔵庫を思い出してみてください。細い管が張り巡らされているでしょう。その管からフロンを集めようと思ったら、かなり強い吸引力が必要なんです。市販の機械の吸引力は弱いんですよね。
また、フロンを破壊処理するにはお金がかかります。つまり、回収するフロンが少ないほど安く上がるわけで、性能の高い回収機はなかなか開発されないんです。この状況を変えるには、回収率の高い機械でなければ認可しないといった、行政の規制が必要だと思います。

Q. 市販の機械で回収した場合、残された半分のフロンはどうなってしまうんですか。

そのまま、空中に放出されてしまうんですね。フロンは目に見えませんし、人体に直接害を及ぼしません。逆に言えば、きちんと回収するかどうかは回収する人の良心にかかっているんです。悪質な業者が、フロンを空中に放出していながら、回収現場の写真だけ撮って、作業終了の書類を提出していることもあります。それなのに、こんな状況を取り締まるチェック態勢ができていないんですよ。

Q. 直接の害がないといっても、オゾン層は破壊されるわけですよね。

フロン回収に雨は大敵。常にラジオで天気予報をチェックしている
そうですよ。でも、目に見えない危険に対して人は鈍感になりがちなんでしょうね。まだまだ日本人の意識は低いなぁ、と悲しくなります。オゾン層破壊については以前マスコミがさかんに報道しました。モントリオール議定書によって特定フロンの生産も全廃と決まり、世間ではフロンの問題は「めでたし、めでたし」で終わったことになっています。でも、フロン放出の問題は何も解決されていません! 自動車解体工場や家電処理場など、末端の現場では今も、フロンが放出されつづけているんです。
今年4月から家電リサイクル法が施行されましたよね。その前に駆け込みで新しい家電製品を買った人が非常に多かった。そして、大量の冷蔵庫やエアコンが捨てられたんですよ。リサイクルのためにできた法律ですが、結局リサイクルしないごみを増やしてしまった。なんだか、大きな矛盾を感じますよね。3月から僕は、これらの冷蔵庫やエアコンのフロン回収に追われています。やってもやっても終わらない。この春は、休日なしで作業しましたけど、まだ、フロンを回収できていない冷蔵庫とエアコンが残っているんですよ。
梅雨の季節は空調機の取替え時期にあたるので、例年忙しくなるのですが、今年は3月からの作業の続きもあって、とくにスケジュールが詰まっています。それでも、フロンが空中に放出されるのだけは止めたいので、全部回収するまでやり尽くします。

Q. 1992年に特定フロンは全廃されましたが、それでもフロンは使用されつづけているんでしょうか。

確かに生産は禁止されましたが、それ以前にフロンを使って製造された冷蔵庫やエアコンのフロンは回収しなければならないですし、今は、代替フロンが使われているんです。フロンというのはとても多くの種類があって、代替フロンの場合はオゾン層を破壊することはありませんが、CO2以上に地球温暖化を進めてしまいます。だから、代替フロンといえども、徹底的に回収する必要があるんです。

Q. 現在代替フロンが使われているものを、それ以外の物質で代用することはできないのでしょうか

エアコン室外機の処理。まずは回収機の管を確実に装着する
たとえば、冷蔵庫の冷媒に代替フロンが使われていますが、これは炭化水素で代用できます。ライターのガスにされる物質ですね。炭化水素にはオゾン破壊力はないんです。ただ、可燃性があるという理由で実用化されずにいます。でもね、ドイツではほとんどすべての冷蔵庫の冷媒が炭化水素に切り替えられているんですよ。これは、グリーンピースの運動の成果で、「フロン冷蔵庫不買運動」のキャンペーンをはったわけです。消費者もそれに賛同し、フロン冷蔵庫を購入しなくなった。メーカーというものは、消費者が買わないものは作らないんですよ。つまり、日本でメーカーが今もフロン冷蔵庫を作りつづけるのは、消費者の意識の現われでもあるんですよね。ちなみにドイツでは、炭化水素による冷蔵庫の事故は起こっていないそうです。
 
Q. 外国のほうがフロンの危険性に対する意識が高いんですね。

僕はかつて、横田基地でフロン回収の現場を見学したことがあります。基地内のエンジニアに日本の事情を話すと、彼はこう言いました。「回収するのは当然だよ。ここでは、回収をしているかどうかをチェックするためだけに、アメリカからわざわざ人が派遣されるんだよ。空中にフロンを放出するなんて論外だよ。一般の人々だって黙っちゃいない。黙認しているなんて、日本人だけじゃないかな」って。アメリカは京都議定書に批准しないということもあって、環境に対する意識が低いようにとらえている人も多いかもしれませんが、一般の意識は日本よりはるかに高いと思いますよ。

Q. 日本でも、近頃は「環境」に対する意識が高まっているように思っていたのですが??。

そうですね。環境をテーマにした勉強会やシンポジウムを行うと人は集まります。僕もオゾン層の破壊について講演することがありますよ。でも、じゃあ実際に汗を流して本気で環境をよくしよう、となるとなかなか動く人はいません。本当は、現場で実際に行動することが非常に大切だと思うんです。>>次のページ


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