編集部:日本はこれからどのような方向性を見据え、“新しいものづくり”をしてゆけばよいとお考えですか?
細谷:日本が今後、「グリーンイノベーション」、そして「ライフイノベーション」という二枚看板の下、“環境先進国”、そして“健康大国”を標榜し、理想とする社会を実現しようとしていることは間違っていないと思います。しかしこれらを実現するためには、国民の生活レベルの維持・向上を前提としたサステナブル社会の構築が大前提になるのではないでしょうか。
資源小国、かつ食料自給率も低い現代の日本が、国民の生活レベルや国際社会での地位を維持し続けるためには、日本が得意とする本来の“ものづくり技術及びその産業の強化”が絶対条件となるはずです。
日本の年間輸入総額である約70兆円の内、約30兆円が一次産品の輸入に充てられ(内約20兆円が原燃料)、それらの一次産品を加工して獲得する約70兆円の外貨が日本経済の活力を生み出していることは事実です。ものづくり産業の代表格には、自動車に鉄鋼、造船、ロボット、輸送機械などがありますが、鉄鋼産業の貢献は直接・間接を含めて約9兆円にも上ります。“ものづくり産業”が獲得した外貨が、税収などを通して日本の未来を支える「グリーンイノベーション」と「ライフイノベーション」の原資となることは言うまでもないでしょう。そのためにも“ものづくり”を支える未来のエンジニアを育成することは非常に大切だと思います。
編集部:“ものづくり”の未来を支える後進たちの育成ですね。人材の育成は、国の未来の活力を計る重要な指標ですよね。
細谷:JFEは国内の主要大学と次世代技術開発に関する産学連携を推進しています。その中で私は東北大学との共同研究プロジェクトに携わる一方、神奈川県下の高校生を対象とした早期工学人材育成事業や理工系大学の教育プログラムにも協力しているのですが、学生たちに“ものづくりの現場”を見せることの大切さを今更ながら痛感しています。ものづくりの現場はかつて3Kと言われたように少々キタナいし、キツい、そしてキケンな印象があるかもしれません。でも、モノが生まれる現場ならではのダイナミズムと感動がここには凝縮しています。こうした現場だけがもつ魅力、連帯感は何ものにも替え難いものです。先ほど、社会の総意としての価値観の共有があってこそ、エンジニアリングは社会の中で機能するとお話しましたが、そこには人間の感情としての喜びや哀しみを分かち合う感覚の裏付けが必要なのです。
技術開発とは、社会のあり方を多角的にシミュレーションし、未来にどのような絵柄が描けるか、を検証することから始まります。しかし、10年後の社会の姿は所詮予想通りにはなりません。
しかし、そしてだからこそ、10年後をイメージした多角的な技術をコツコツと、粘り強く研究することこそ、日本の“ものづくり”を支える原点となり、実効性のあるアクションになると思うのです。
2010年6月24日 JFEホールディングス本社にて