編集部:この場合、厳しい市場原理とは何をさしていらっしゃるのでしょう?
細谷:日本はご承知のように、鉄鋼の素材となる、鉄鉱石やコークスなどの原材料の産出国ではありません。そのほぼ全てを輸入に頼っている。日本は原料を輸入し、それを加工し付加価値を与え、再びそれを輸出することで国の経済を成立させてきた国です。まじめに働き、工夫すること、そして努力することを惜しまぬ日本人の国民性も奏功し、1960年代、70年代は原料を輸入し、それを加工し、輸出することで、採算のとれる状況にありました。ところが80 年代には貿易摩擦問題、90年代には環境問題という法規制に阻まれ、日本の産業全体が根本的な部分での体質改善を余儀なくされたのです。特に90年代に自動車産業を襲ったアメリカ議会の自動車排ガスの総量規制を目的としたCAFE(Corporate Average Fuel Economy)は1988年車を基準にして、1996年までに20%、2001年までに40%の燃費の向上を義務づけるというものでした。この法案は成立しませんでしたが、自動車業界のみならず我々鉄鋼業界においても非常にシリアスな問題として受け止められ、自動車用のハイテンの開発が急務となったのです。