細谷:二つ目のグラフを見ていただけると、この事実は一目瞭然です。日本の粗鋼生産量は1965年から1973年ごろまでは毎年確実に生産量を伸ばし、年間で4000万トンから10000万トンの大台に伸せるまでになりましたが、それ以降は現在まで10000万トンの横ばい状態です。これが意味することは、鉄鋼業界は1970年代から成熟した市場環境の中で“日本としてのものづくり”の体質改善を真剣に考え、そのための研究を続けざるを得ない状況にあったと言えるでしょう。
編集部:鉄が自動車にとってなくてはならない素材であるにもかかわらず、鉄鋼業界は自動車産業とは異なる発展の経路を歩んできたという訳ですね。
細谷:海外生産によって量を拡大するビジネスモデルに関してはその通りです。その市場を世界に求めることができた自動車産業とは異なり、我々鉄鋼業界は1970年代後半から彼らの国内生産分の鉄鋼供給というシーンにおいて、メイド・イン・ジャパンの自動車にとって魅力的、かつ差別化された素材製品の提案をする必要があったのです。近年、自動車用に使われる強度の高い鋼のことを総称し、自動車用HITEN(ハイテン)と呼んでいますが、このハイテンはHigh Tensile Strength Steelの略称です。“硬くて、成形しやすい鋼板”はこうした厳しい市場原理があったからこそ、生まれたともいえるでしょうね。