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JFEスチール株式会社 理事 細谷佳弘 さんインタビュー

 

編集部:性能と価格、デザインという判断で、市場に受け容れられていた自動車が、その存在そのものが及ぼす環境負荷をクリアーできない限り、市場には供給出来ないという法規制が出現した訳ですね。

細谷:科学(Science)は真理の追求そのものに価値を見出すことができます。しかしながら、我々の業界を支える工学(Engineering)は、時として進歩や最先端のみが評価される分野ではないのです。市場原理に常に晒されることを覚悟し、技術開発と製造管理を進めなければならないのです。開発から製造まで、コスト管理がなされ、しかもその製品を市場が受け入れるインフラや価値観の総意が整っていてこそ、その研究開発は意味のあるものとして評価されるのです。

編集部:経済論理に沿った研究開発といっても、これを察知することは非常に難しいのではないでしょうか?

細谷;ご指摘の通りです。社会がこれからどのように変化していくのか? それぞれの自動車メーカーがどのような戦略の下、新車開発をしているか? 鉄鋼メーカーが部外者という立場でいたとしたら、察知することなど不可能です。ですから我々は積極的にそれぞれの自動車メーカーと“作りたい車”の価値観を共有し、開発段階から参画し、“硬く、しかも成形しやすい鋼板”の研究をそれぞれのメーカーに向けて個別に提案しています。

編集部:自動車用ハイテンといっても均一ではない、実にきめ細やかな製品開発がなされているのですね。

細谷:メーカーが要求する基準もそれぞれに微妙に異なるわけですし、より魅力的な価格を設定するためにも、我々としてもクライアントが要求しない特性を製品に付加することはしません。鉄鋼メーカーとしては、利益率の高い製品数を出来る限り絞りこみ、できれば、そこから近似なものを選んで買っていただくのがより望ましいことは事実です。でも、現在のクライアントの要請は細かくセグメント化され、明確な基準値がある。それらをクリアーして、鉄鋼製品を購入していただくためには、我々サイドにマーケット・インの発想は必要条件なのです。

日本はもともと資源が少ない国です。原料に付加価値を与える“加工貿易”で、世界が評価する“ものづくり”の国としてここまで発展を遂げることができたのです。その国が未来においても、世界市場の中でそれなりの影響力を持ち、“メイド・イン・ジャパン”をアピールしていくには、それなりの努力をしていかなければならないのは当然ではないでしょうか? 確かに“無から有を産む”といったような発明は我々には得意分野ではないかもしれない。ただし、異なる作業を一連の流れとして繋ぎ合わせ、効率の良い製造工程を考え出すようなことは非常に得意です。

自分たちの強みをしっかり自覚し、それを活かしきる“新しいものづくりのスタイル”を社会全体の総意として育ててゆかなければならないと思うのです。

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