川崎アゼリア2006-2008:第2章

 

もう少し具体的に、川崎アゼリアの空調設備の昔と今についてお話いただけますか?

アゼリア川崎 筒井さん

筒井 川崎アゼリアの延べ面積は56,000km2と大変広く、セントラル空調(*1)を使用していました。さきほども申し上げましたが、アゼリアの空調設備は使い始めて20年が経年していましたから、機能面でもだいぶ効率が落ちていました。しかし空調設備をすべて入れ替えるということをしてしまうのは大変な負担と労力がかかりますし、営業を止めてしまうわけにはいきませんので、使える設備は生かし、必要な改修と設備の入れ替えを計画的に行いました。

まず、冷水・暖水を作る冷温水発生機を最新式に変えました。設置した3台の発生機は同じ能力で、大幅な省エネが可能になりました。また、各所にてインバーター制御を行い、できるかぎりの動力の無駄を省いています。換気ファンなどにもインバーターを導入し、ファン動力の低減をはかっています。

冷温水発生機と換気ファン

 

そして、年間冷房系統においては、いままでの水蓄熱タイプの空調施設にかえて、川崎発祥の先端技術とも言える水和物スラリ蓄熱空調システムを導入しました。その他、冬季はフリークーリングを採用し、徹底した省エネを図るなど積極的な改善工事をいたしました。さきほど西村さんがお話しくださった中央監視システムの「BEMS」も無駄をはぶき、効率的な省エネ対策を行うために必要な導入でした。それらの空調設備の改修により、全体として年間CO2の排出量を1188ton-CO2も減らした計算になります。

水和物スラリ蓄熱空調システム

 

実績

 

(*1)・・・セントラル空調とは、冷暖熱源を中央熱源設備でつくりだし、個別の空調機に送りだす仕組み。冷水や温水を使用する水冷式や、冷気や蒸気を使用する空冷式がある。一般的に10,000m2を超えるスペースで使用されることが多い。

 

それだけの新空調システムを導入する工事は一苦労だったのではないですか?

搬入

筒井 そうですね。改修と言いましても、もともと大きな設備ですし、中央広場の真下に空調機があるため、営業中の施設内に騒音や粉じん・臭気・煙を発生させないよう、JFEさんには大変御苦労をかけたと思います。川崎アゼリアは年中無休の商業施設で、JRと京急の連絡路として多くのお客さまにご利用いただいておりますから、通年で空調の確保が必要です。少しでも、冷暖房負荷の少ない時期に工事を行うなど工程面でも工夫をしていただきました。

西村 営業活動の妨げとならないよう、またお客様の安全と快適さを保ったまま効率的に工事が進むように心がけました。新たに導入をした各大型機器類は可能な限り分割し、夜間に地下駐車場の車路を使用して搬入しました。

 

ところで、空調設備改修の目玉とも言える「水和物スラリ」とは一体どういうものですか?

西村 「水和物スラリ」というものは、当社がNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)と共同で開発をした技術です。(*2)具体的にはTBABと呼ばれる物質を水に溶かした水和物の混相流体を指しまして、冷却すると微細結晶が生成されます。この微細結晶は普通の水と比べて大きな潜熱を持ち、温度上昇が緩やか、平たく言えば温まりづらいのが特徴です。5℃から8℃の間で水に比べて約2倍の保温性があることが実証されています。

水和物スラリ実験

 

このような特徴をもつ「水和物スラリ」を蓄熱に使用した水和物スラリ蓄熱空調システムは、昼間より電気代も安く、CO2の排出が少ない(*3)と言われている夜間電力を利用して、水和物スラリを蓄熱し、昼間に効率よく空調に利用する、というものです。現在のところ、真夏のピーク時に、一日の営業時間15時間中約3時間分をカバーできており、春や秋の空調利用が少ない時期には水和物スラリの夜間蓄熱のみでまかなえています。川崎アゼリア全体の空調設備による導入効果、CO2の年間排出量1,188tの削減の内、水和物スラリの導入効果は約212tほどです。

(*2)・・・第35回日本産業技術大賞 内閣総理大臣賞受賞(2006年)/ 第17回日経地球環境技術賞受賞(2007年)/ 第10回国土技術開発賞受賞(2008年)
(*3)・・・夜間電力は昼間の電力に比べて、使用料金は安く、原子力発電の占める割合が高いため、発電時の化石燃料の使用割合が低く、二酸化炭素排出量が少ない。