様々な努力と工夫を重ねて、古紙の回収・リサイクルを定着させたのですね。その後、「森の町内会」活動を立ち上げ、間伐問題への取り組みという全く新しい試みに向かわれた経緯を教えてください。
「オフィス町内会」の活動を通して経験則として得たのは、社会を変えたいという意志の基に行うボランティア活動というのは、何らかの仕組みを発案して作り上げ、普及させる、そしてそれを市場経済において本業として運営できる人や企業にバトンタッチすることが継続性を担保する上で極めて重要であるということです。つまり本業の方々へ刺激を与えることができるか否か、ということです。ゴミを拾ったりして街の美化を推進するボランティア活動も大変素晴らしく、意義深いことではありますが、一部の篤志家の思いに頼る活動よりも、誰もが引き継いでいけるだけの仕組みを作り、伝える。その方が世の中を変えるための大きな実効性を持った力になると考えました。そういう点から言えば、継続のための経済性を確立し、古紙分別回収の社会的なモデルとなった「オフィス町内会」の活動は、一定の役割を果したという自負がありました。そこでボランティア活動はもう卒業だという考えもあったわけですが、私達は新たな社会目的を志そう、と思いました。それが「森の町内会」の活動へと発展したわけです。
最初にお話をした通り、自分の故郷は福島県で、祖父は山を所有していました。私が育った昭和30年代というのは日本の林業がまだ元気な時代でした。しかし、ここ数十年は、海外からの木材が大量に入り、国産の木材価格はどんどん下がっていきました。その結果として、森を健全に保つための間伐事業に力を費やすことが出来なくなりました。近年、山間部で鉄砲水や地滑りなどの天災が数多く起きていますが、それらは森林や山が本来持っている保水力が落ちていることが一因だと言われています。それに加えて、森が本来維持している豊かな生態系が崩れたり、CO2の吸収率が落ちたりするなど、間伐が行われないことによる悪影響は色々と起きています。自分の原体験と現在私たちを取り巻く問題が交錯しまして、「森林の育成」という題目が現れたのです。
「森の町内会」の活動のユニークさは、間伐を促進するということだけではなく、そこからモノ(紙)を作って、流通させ、それを次に繋げるというソリューションが構築されているところにあると思います。そのような発想はどのようにして出来上がっていったのですか?
間伐の促進を行う上でも、「オフィス町内会」で大切にしていたポリシーをクリアできるかがポイントでした。自分たちの原点である「町内会」という共同運営型の活動であること、継続性を目指した経済性を担保すること、そして、最終的に本業へのバトンタッチができるモデルを作れること、です。この3つの仕組みを確立するにはどうしたら良いか、思案し続けました。その間、林野庁の方や林業の方、木材の多目的使用に成功している方など多くの方々との勉強会を開き、アドバイスやお知恵をいただき、結局「紙」を媒体にしようと思うに至りました。