ガソリンエンジンよりもクリーンで、ディーゼル並みの燃焼効率を実現できる"異種交配"のHCCIエンジンが、直接噴射ガソリンエンジン(GDI)に続く、【第4のエンジン】として期待を集めています。20年以上前から乗用車やバイクを運転されたことがある方ならば誰もが経験したことがある「アフターラン」。 これはキーを外してもエンジンが数秒間回り続ける現象なのですが、この「アフターラン」の燃料原理が、まさにHCCIです。日本語では【予混合圧縮自己着火燃焼】(Homogeneous-Charge Compression-Ignition combustion)、従来のエンジンよりも優れた燃費性能と排気性能を実現する燃料方式なのです。日本は早くからこの原理に注目し、先駆的な研究者を輩出してきました。

予混合圧縮自己着火(HCCI)エンジンはガソリンエンジンのような火花点火エンジンと、ディーゼルのような圧縮着火エンジンのハイブリット種を考えてください。ガソリンエンジンは燃料と空気の混合気、つまり均質な混合気をシリンダー内に導入し、点火プラグによって混合気を着火させます。その後、高温の火炎面が混合気中に伝わることで燃焼します。一方、ディーゼルエンジンでは、ピストンの圧縮工程でシリンダー内に燃料を高圧噴射すると、噴射された燃料は、高温・高圧の空気中で霧のように広がり、爆発・拡散の過程でさらに空気と混合し、不均質な混合気がつくられ、自己着火燃焼をするのです。

HCCIエンジンは「混合気供給方式のガソリンエンジン」と「圧縮自己着火方式のディーゼルエンジン」の両方の特徴を合わせ持つエンジンなのです。しかも、燃焼時の火炎温度を比較的低温に保つことが出来るため、高い熱効率、つまり低燃費が実現でき、NOxや煤の排出が少ない、クリーンなエンジンでもあるのです。

●詳細情報 慶應義塾大学 理工学部 飯田研究室

編集部:
複雑に絡み合った誘因で引き起こされている地球温暖化について、
どのようにお考えになられますか?
また、その改善に向って、一般人である私たちができることは何でしょうか?




飯田:
地球温暖化の元凶とされているCO2ですが、本当にCO2が原因で引き起こされているかどうかを、ここでまず検証してみませんか? CO2はご承知のように、呼吸をする生物から排出されるものです。私もあなたも、そして人間のみならず、全ての生物はその命を維持するために呼吸をし、その結果として絶え間なくCO2を排出しています。ですから莫大の生命体を載せた地球が生きている"証拠"として、CO2を吐き出すという現実を無視はできません。さらに、地球というひとつの生命体を、惑星の生命サイクルという時間感覚で考察する時、近年顕著な傾向として認められる温暖化現象にしても、どのようなピリオドで向き合うべきかという"判断の立ち位置"も、問題になってくるでしょう。

地球温暖化に影響があるとされる【温室効果ガス】を手短に説明すれば、CO2などによって構成される【温室効果ガス】の存在によって、宇宙への地熱の放射が遮られ、内側に熱が籠もってしまい、その一方、強烈な太陽熱は、地球を覆う気体の膜をさらに暖めることで引き起こされる現象とされています。この現象を喩えるなら、暖かい壁で囲まれた部屋のような状態です。壁が暖まっていると、実際の室温よりもエネルギーの交換により、暖かく体感する状態です。いづれにしても、現在の地球は、複合的な要因で生じた暖かい気体の膜にすっぽりと覆われてしまっている状態なのです。

ですから、CO2を削減すれば、地球温暖化が解決するという単純な議論は危険です。温室効果ガスは、二酸化炭素CO2のみでなく、メタン、亜酸化窒素、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、六フッ化硫黄などが挙げられます。また、環境影響は、大気圏では、地球温暖化の問題の他に、オゾン層破壊、光化学現象、水圏では酸性化、富栄養価、そして土圏では人体毒性、環境毒性、等の問題があり、ライフサイクル影響評価の視点から総合的に判断してゆく必要があります。何事も丁寧に原因を検証し、その問題解決に向ってじっくりと"解"を求める姿勢が欲しいですね。この問題については、さらに慎重な議論がされることを期待しています。



さて、地球温暖化問題と真摯に向かい合うには、同時に未来に向ってエネルギーセキュリティーをどのように考えるかという覚悟も必要です。極論ですが、温暖化阻止をアピールするなら、未来のエネルギー問題の根源的な解決を追求する姿勢も大切です。エネルギー問題を真剣に捉えるには、現在享受している"快適な生活"のを根本的に見直し、エネルギー無かった昔のライフスタイルに戻れるか、という最悪のシナリオをも想定する必要があるのでしょう。つ
まり、エネルギー問題の打開には、厳しい現実をまずしっかり理解することから始めるべきなのではないでしょうか?いずれにしても、楽観的な身勝手な議論だけでなく、現実としてのエネルギーへの危機を実感として受け止める姿勢も必要ではないかと感じています。

自給自足から始まった人間の日常生活、それが次第に集落を築き、財を蓄え、コミュニティーの発展によって分業が始まり、専門職が成立するようになります。それが蒸気機関の発明、つまり産業革命による大量のエネルギーの出現によって、一挙に産業は発展しました。私たちは現在、実に便利で快適な生活を手にいれました。が、同時に自分の日常生活の必需品を何一つ生産できない、他人に100%依存する暮らしをしているのです。こうした便利な生活を手軽に実現してくれるのは、すべてエネルギー。ベースにエネルギーのインフラが整備された社会だからこそ、享受できる快適性なのです。

現代社会が直面している諸問題は、いずれも複合的な原因が重なり合い、生じていると言っても過言ではないでしょう。そうした現実の中にあり、私たち自身は反省すべきことも数多くあるでしょうが、工学がもたらしたこれらの様々な"幸せ"に想いを馳せ、先人たちが築いた工学の礎をさらに一歩推し進めて、ひとりひとりの人間の尊厳の実現のために、より細やかに問題解決を提案できる21世紀の工学を目指したいと思っています。

最後に。現在の状況下でもっとも必要なのは、人々を繋ぐ環境への"ものさし"でしょう。誰もが納得し、共通の目的達成のための数値設定です。異なるポテンシャルを持つ人がそれぞれに出来ることは違うかもしれません。でも、そこに"ものさし"、"共通の意識を生むフェアーな数値"があったら、大きくて複雑な目標に向っての努力を、もっと達成感を持ってできるのではないでしょうか。
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