~地球の声に耳を傾ける~
エコピープル

2023年春号 Ecopeople 95『三人三様、その未来の姿』

1 自らを語る

編集部
自分紹介は豊かな議論を成立させる上で、大切なシーンだと考えます。
Twitterなど、短い言葉でしばしばコミュニケーションをとる「Z世代」世代の皆さんに、今日はご自身の人格を読者に伝えるべく、ご自身をじっくりアピールしていただけますか? それでは山﨑さんからお願いします。

山﨑
よろしくお願いします!山﨑すがらと申します。2001年生まれ、僕は現在、東京学芸大学の3年生。大学では博物館学、図書館学、社会教育学を専攻し、映像作品を学業と並行して自主制作しています。
映像制作の現場でも気候変動の影響はかなりはっきりと現れており、その深刻さを日々実感しています。たとえば撮影機材のカメラをひとつとっても、猛暑となる夏季は冷房の効いた室内と外気の極端な温度差にデリケートなカメラ機能を守るべく、キャメラマンたちは夏場のカメラの戸外持ち出しに躊躇う状況になっています。
編集部
冬は冬で、バッテリー消費への対応が課題になっていますね。

山﨑
撮影媒体、撮影機材もどんどん変わり、その過程で失われていく風景や環境の変化が生み出す課題を、意識しながら撮影しようと心がけています。
博物館学的なアプローチでは、かつて特撮で使われてきたスーツや小道具を“どのように保存していくか?”を研究テーマにしているんですが、単純な経年劣化に加え、紫外線や寒暖差で劣化しやすい素材が使われているケースが多く、厄介な問題も孕んでいるなと感じています。
編集部
今、話していらっしゃる“特撮の素材”とは何を指しているのかしら?

山﨑
『ウルトラマン』、『ゴジラ』、そして『仮面ライダー』とかです。いわゆる特撮ヒーローが着用したスーツ類です。
編集部
博物館学アプローチとして、特撮ヒーローたちが着用したコスチューム保存を研究テーマにされているのね。ところで、山崎さんはどんな作品を制作したいと考えているの?

山﨑
特撮映画の文脈の延長線上にある作品です。CG技術は現在、急速に進化しているんですが、僕はそれとは一線を画し、生の人間が演じる特撮作品を残したいと思っています。
過度にデジタル技術に依存することなく、生身の人が演じることで伝わってくる“何か”がある作品を作りたいと思っています。僕らの学生映画そのものにも大きな可能性を感じていて、荒削りな感覚を残した学生映画の社会的地位を高めたいと強く思っています。
編集部
ありがとう。それでは“木育ガール”の前田さん、お願いします。

前田
ハイ! 前田彩世と申します。東京学芸大学大学院の1年生、教育学を専攻・研究しています。広い“教育”の分野の中で、私の研究テーマは「木育」です。「木」に教育の「育」を繋いだ造語「木育(もくいく)」です。
私自身が“木育ガールキキちゃん” っていう名前で活動していることもあるんですけど、実践だけではなく、もっと学術的にも裏付けした状態で、子どもたちに良質な教育の機会を与えられたらなって思って研究中です。社会が本当に求める「木育」とは何か? 
現在、内閣府の意識調査をベースに分析し、「木育」の果たすべき役割を研究しています。
実践の場面としては、土日は子どもたちを対象としたワークショップの指導をしています。不良品の割り箸とかを使って、創造的なモノづくりのシーンを体験してもらい、“森林保全”という概念を教えています。同時にワークショップの時間を通して、子どもたちの自己肯定感を高めるサポートもしていく、この2つを目標にしています。
編集部
「木育」学科、ないしカリキュラムが学芸大の中には存在するの?

前田
ないんです。現在、「木育」を研究しているのは大学では私しかいません。
修士論文を「木育」とした人も多分いないんじゃないかなって思います。
編集部
それでは、前田さんがフロンティア?

前田
そのようです。国民運動として国が始めた取り組みなんですけど、北海道から始まって、いよいよ全国レベルで展開しようという今になって、さまざまな問題が生じているんです。
「木育」っていう“便利なワード”ができたことで、林業界とか、木材業界の人たちがこれからは教育ですと、アピールしてどんどん事業を立ち上げているんですが、教育現場では、「木育」を今まで現実問題としてやってこなかったので、林業や木材産業のことを調査、研究した「木育」実績がほとんどない状況なんです。
編集部
微妙な状況にあるのね。
ビジネスのシーンでは「木育」が本来の教育としての「育」、前田さんが目指す子どもたちの自己形成に寄与する「育」も欠落し、経済発展や産業促進の側面に偏って「木育」が認知されてしまう危険性が高いということかしら?

前田
そうなんです。ビジネスを発展させる便利な言葉のひとつとして注目され、広まっていっているんですけど、私はそこにちゃんと教育を組み込んでいかなければと思っているんです。
編集部
教職はとっているの?

前田
ハイ! 中学校の技術教員免許をもっています。
この免許には木材加工も含まれ、実技をしっかり教えることができます。
編集部
ありがとうございました。
久保寺さん、お待たせしました。よろしくお願いします。

久保寺
ハイ。久保寺康介です。現在、東京都立大学大学院の理学研究科 数理科学専攻というところで数学を研究しています。学部時代は山崎君や前田さんと同じ東京学芸大学に在籍してました。教員免許は4項種にわたって取得して、卒業しました。
卒業後は、そのまま教員になるという選択肢もあったんですが、正直、もうちょっと自分の視野や可能性を広げたいと考え、大学院に進みました。
私には“「諦める」という選択肢をなくせる手助けを”というひとつのヴィジョンがあります。この意味を説明すると、教育分野に偏った話になってしまうかもしれませんが、たとえば中高生の生徒たちの選択肢とは、自分たちがその時点で「知っていること」からしか選べない現実があります。
「知らないこと」は選べないのは当然ですが、それなら「知っていること」を増やせばいいと私は思うんです。
「知っていること」が狭く、限られていればいるほど、未来への進路とか、自分の人生を切り拓く選択肢が狭まってしまう…。よって私は、「知っていること」を増やすサポートをすることをやってゆきたいと思っています。
「知っていること」が多ければ多いほど選択肢は増え、子どもたちの“諦め率”を下げることができるはずだと。
「こういうやり方もあるんじゃないか?」
「直接進むことはできなくても、回り道をしていけば最終的にやりたいことに到達するじゃないか?」
知ることで未来への道筋をたくさん考えられるようになると思うんです。
そこで“「諦める」という選択肢をなくせる手助けを”っていうビジョンを掲げ、いくつか活動をしてます。
編集部
具体的にはどんな活動をしているんですか?

久保寺
私は専門が数学ですので、数学教育というシーンで活動をしています。
ちょっと塾や予備校的になってしまう部分は確かにあるかもしれませんが、数学教育にフォーカスした仕事をしています。
もうひとつは、キャリア教育のシーンでの活動。数学とは離れ、高校などで特別授業を行い、生徒たちが望む自己実現への道を拡張する手助けをする活動をしています。