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■21世紀のキーワードは“蓄える” Q: “複眼思考”を習得するための効果的な方法があれば、アドヴァイスしていただけますか? 金子:それはたいへん難しいですね。ただ最初の話に戻ってしまいますが、次の世代に“何を”、“どんな風に”残していきたいかと考え始めると、さまざまな要素が世の中には存在していることに気づくはずです。例えば、エネルギーや環境のようなものから、歴史や文化のようなもの、そして日々必要な財、つまりお金などもあります。どれひとつとっても“蓄えて、次世代に残してあげる”ことは並大抵のことではないのです。“たんす預金”のようなわけにはいかないのです。ですから工学者もどのようにすれば、さまざまなものを蓄え、次に世代にしっかりと残していけるかと一生懸命考えるべきではないかと思うのです。複眼思考とは、そうした発想を支えるベースになると思っています。私は最近感じているのですが、“蓄える”というテーマは21世紀を導くキーワードではないでしょうか? Q: 工学の先生から“作る”ではなく“蓄える”という言葉を伺って、正直ちょっと驚いています。 金子:私は工学者ですから、エネルギーを蓄え、いかに効率よく活用させるか、また物質を効率よく循環させるかに最大の関心があります。が、同時に文化や歴史、知的財産の継承、技術の伝承なども併せて考えることが重要だと思っています。まわりとの関係を十分考慮して、物事は進めていくべきではないかと私自身は常に考えてきましたし。私の実家は鍛冶屋を営んでいたのですが、小さな頃から、仕事に関わる人間のリレーションの大切さ、ものづくりが一筋縄では行かないことを目の当たりにしてきました。うまくいかないことの方がうまくいくことよりもはるかに多いのです。 Q: ご指摘の通り、“蓄える”という視点から自分自身の生活周辺から見直すだけでもさまざまなことが見えてきそうですね。 金子:状況を客観的に把握する上でベースとなる情報を持っていると、進むべき指針は自ずと見えてくるものです。複雑な事象に一挙に取り組む前に、まずはベースとなる規範をきちんと持ってから行動することが重要だと思いますよ。 Q: 情報を管理し、自分の生活を見直す処方箋みたいなものはあるのでしょうか? 金子:それだったら、データをつけることをお薦めしますね。エネルギーの消費にしても、自分が日常生活のシーンでエネルギーを具体的にどのように使っているかは意外と知らないのではないでしょうか? エアコンにしても携帯電話にしても、消費電力のイメージを持つと自分がどんな時間帯にどんな容量のエネルギーを消費しているかが分かります。そうすれば“省エネをする”=“蓄える”ための方法論が見えてきますよね。 健康管理も同様です。毎日、体重や体脂肪、血圧、それに食生活などの記録をとっておけば、どんなときに体調を崩しているか、どんなストレスに弱いとかなどの健康維持への因果関係も分かるはずです。実際にデータを取り始めると、予想していたものとはかなり違う数値であることにきっと気づくこともあるはずですよ。 ゴミ問題も然り、どんなゴミをどれくらい出しているかで生活スタイルの改善点が明白になるはずです。 これは力学や工学の非常に基本的な理論、“保存則”という原則に即した考え方です。つまり、“入ってきたもの”と“出て行ったもの”の差が蓄えになるというシンプルな理論です。それを自覚して実際のデータと共に生活を見直すと、自分自身のスタンダードとなる数値や問題点が見えてくるはずです。判断すべきデータを自身で管理することは非常に重要なことだと思います。現代はものごとを然るべく判断できる人はたくさんいらっしゃると思います。が、その方々が判断材料となる基本データを持っていらっしゃらない場合が多いのではないでしょうか? Q: さまざまなレベルでデータをきちんとつけ続けていれば、過去の誤りや良かれと思ってしていた事柄への反省点が具体的に見えてくるということですね? 金子:そうですね。先ほども申しましたが“行きつ、戻りつ”することを恐れずに、未来に対してしっかり蓄えを残したいものです。エネルギー、環境、食の安全、高齢化社会、それぞれが複合的に絡み合って社会を、よりよい方向に持っていくのは、誰でもない、私たち自身が未来社会へのナビゲーターになるべきだと思っています。END |
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