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コンサヴェーショニスト(Conservationist)”と
“プリザヴェーショニスト(Preservationist)”の違い



Q:“コンサヴェーショニスト(Conservationist)”と“プリザヴェーショニスト(Preservationist)”の違いというのもありますね。

デヨング:そうですね。私たちは“コンサヴェーショニスト”の立場。自然を破壊する権利はないけれども、人間は自然の中に存在する権利を神から与えられていると思っています。“プリザヴェーショニスト”の見方は、「人間が大自然に手をつけること自体が間違いなのだから、我々はここにいるべきではない。」という感じかな。この見方はもちろん現実的ではありませんよね。私たちの会社の基本方針は「私たちのコミュニティを維持し、経済を維持し、自然環境を維持する」という三つです。

さっきお話した燃料の流失事故の時に、もうひとつわかったことがあります。私たちは、コミュニティの中に強いネットワークと協力体制を築かなければいけないということです。地元の環境保護団体との関係は特に重要です。コミュニティの様々な状況を理解し、経済的な背景も知ったうえで環境問題と取り組んでいる地元グループと協力して、一緒に方針を立てて行くことが大切ですね。
たとえ様々な人が出入りしたとしても、その日一日が終わって家の中の掃除をするのは、結局そこに住んでいる人です。環境問題も、本当にその土地を保護し、環境を維持していくのは、そこに住んでいる人々でしょう?
だから、いくらグローバリゼーションが叫ばれても、最終的にそのコミュニティの将来を決めるのは、そこに住む人々であるべきだと思っています。

Q:例えば、地元のどんなグループの人々と協力体制をとっているのですか?

デヨング:まず、社内でHIT(Habitat Improvement Team) とういグループを作りました。1998年からはHITメンバーは毎夏、地元の環境保護団体の様々な活動に積極的に参加するようになりました。熊の生態観察や保護を中心に活動している「The Bear Task Team」や、魚の産卵環境の保全を目的とした「The Whistler Fish Stewardship Group 」などがその例ですね。私たちは、環境問題をただ議論するだけではなく、様々な関心を持つグループに共通した基盤を探すことが大切だと思っています。
カナダ西部全域に生息する
ブラック・ベアー


1992 年の事故直後に私たちの基本的な姿勢が変わってから、まず手をつけたのはゴミを減らすことでした。リサイクルのプロジェクトも開始されました。従業員やコミュニティに環境問題について学んでもらう教育プログラム、たとえ燃料貯蔵に何らかの問題が起きたとしても、何重もの安全対策をほどこして環境への影響をくい止めるシステム作り、熊などの野性動物の保護プロジェクトなども開始されたわけです。
1990 年代の終わり頃には、私たちの環境問題への取り組み方をより大きなスケールで考えるようになりました。地球規模での環境問題への視点ですね。例えば飲料水の問題。今後の20年から30年間の間で、地球全体でどれほど飲料に適した水が少なくなるかという研究は恐ろしい統計をはじきだしていますよね。地球の温暖化の問題もしかりです。こうした地球規模の問題を自分たちの周辺の環境に照らし合わせて調査を進めたり、対策を立てたりするようになりました。

Q:そうした姿勢はスキー場そのもの設計や開発にも反映されていますか?

デヨング:スロープのデザインや建設方法にも大きな変化がありました。例えば、森を切り開いてコースを作る時にも広い面積を一挙に切り倒すのではなく、間伐にとどめて林間コースを作ります。切り倒した木々も従来のやり方で運び出すのではなく、ヘリコプターを使って一本、一本、吊り下げて運びます。土壌へのインパクトを最小限に押さえようという試みです。
間伐で森に光が差し込むようになれば、地面にはハックルベリーなどの実をつける灌木が生えてきます。このベリー類は熊などの野性動物の主要な餌になるわけです。クローバーなどの種を蒔いて野性動物の餌になる草地を増やしたりもしています。
1990年代の半ばから現在までの間に、私たちはスキー・スロープのデザインに関する教科書を書き直したようなものです。野性動物の生育地帯であることがわかれば、そこを避けるし、土壌への工事の影響が大きい湿地帯は避けるなど、土壌や自然環境へのインパクトを最小限に押さえようとしてきたわけです。

あるエリアでは1990年代半ばから比べると、鹿の数は2 倍以上に増えています。プリザヴェーショニストの人は、私たちが自然のあり方に変更を加えたと批判するかもしれませんね。でも私の立場から言わせてもらえれば、私たちのゴールは「共存」ですから、野性動物の数を増やすチャンスがあるなら取り組んでみるでしょう。
森林を破壊しないように設計された林間コース


Q:資源ゴミのリサイクルは今でこそ「常識」になっていますが、リサイクル・プロジェクトを始めた時には、ホテルなどのコミュニティの反応はいかがでしたか?また、オリンピックなどの大規模なイベントで一挙に滞在人口が増えた時に、下水やごみ処理問題にいかに対応なさるつもりですか?

デヨング:リサイクルに関しては、ホテルなどコミュニティの人々に対して説得を繰り返しました。当初の反応は様々でしたが、大型の主要ホテルがリーダーになってリサイクル・プロジェクトを始めたことで、他の組織も流れに従ってくれました。地元の自治体は最初から非常に協力的でしたし。

オリンピックに関してですが、量的な問題として言うなら、オリンピックは大げさにとらえられすぎていると思います。例えば、今週末でも3万人を軽く越える人が滞在しています。オリンピックの期間中でも、それほど大きな違いはないでしょう。正確な数字を言える立場にはありませんが、オリンピック・ビレッジが建設されても、5千から8千ベット分増える程度です。今からオリンピックの開催時期までの新しいホテルの建築は少しは予定されていますが、それほど増えるわけではありません。5万人程度のキャパシティをこなす設備はすでに整っています。年末のピーク時には、今年でも4万人ぐらいのゲストが滞在しますからね。

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“プリザヴェーショニスト(Preservationist)”の違い

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