eco people 49 「鉄 モノづくりの原点を見つめ直す」

はじめに。

2011年3月、日本は未曾有の災害に襲われました。この予想を超えた出来事を経て、私たちは自分たちの暮らしを支えてくれている様々なモノのありがたさに気づかされました。ほとんど意識することなく、当然のように使っていたものが、実は生活の根底を支える基盤となって、私たちの快適で安全な暮らしをしっかり守っていてくれていたことに、多くの人が深い感謝の気持ちを抱いたのではないでしょうか。
水、食料、居住空間、エネルギー、そして移動手段となる交通インフラ…。
私たちは今回、改めて日本経済の発展の礎をして永年にわたって貢献してきた"鉄"という素材を通して、モノづくりの原点という視点に立ち返り、どのようにモノづくりと向き合うべきかを見直してみたいと考えました。

製鉄所で生産されている鉄はご承知のように素材です。私たちはビルも橋も、電車、自動車にも鉄が使われていることは知っていますが、用途やシーンに沿って機能を特化した鉄に姿を変えていることもあり、"鉄"そのものを正確に意識することは少ないはずです。さらに家庭の中では冷蔵庫や流し台、キッチン用品や食品の缶詰など、さまざまな形状や形態に変化して、鉄は私たちの日々の暮らしに深くかかわっています。いずれにしても消費者にとっては、最終的なモノとして認知されることが少ないせいもあり、"鉄の存在"をちょっと遠くに感じているのではないでしょうか?

ここに、ひとりのアーティストがいます。その人は倉田光吾郎さん。彼の作り出す作品はまさに"鉄の造形"、鉄の素材としての魅力を全面に押し出す自由な発想で各方面から注目を集めています。倉田さんの作り上げる作品はどれも鉄の本質にかかわる魅力が凝縮されています。鉄という素材が与える堅牢な安心感と圧倒的な存在感、曲げたり、繋いだりすることで生まれる柔軟にして、エレガントなフォルム。ひとりのアーティストがつくりあげた鉄の造形と実際に対面し、倉田さんをここまで夢中にさせた鉄の魅力を伺うべく、編集部は富士山麓の彼のアトリエに訪ねました。

 

part1 富良野 地球の未来を考える場所
part2 倉本聰、森の時間