ecobeing｜エコファミリー：クマゲラ


	昔、そう、遥かな昔。そんなことが当たり前のように存在した時代の話。北の地にあっては新米の獣医師は大事にされた。そこで気をよくして出入りするお百姓さんに「クマゲラが見たい」と言った。数日後の早朝、玄関の戸がパンと開いてドスンと物が投げ込まれた。「見たいもの」とひと言残してお百姓さんが帰っていった。みるとクマゲラが一羽。当然死んでいる。その時になって初めて彼が狩りもするということを思い出したのである当時も今も天然記念物であることにはかわりない生き物。私は肝をつぶし思わず玄関の戸のカギをかけていた。見たいと言うと死体が登場するという事件はその後も何度かあった。私は自分自身と彼を犯罪者にしないために「観たい」というように言い方を変えた。転居を決め土地を求めてあちこちと歩いた。案内されて何ヶ所かめの林でクマゲラに会った。「ここにします」と決めた。時々私の仕事部屋をクマゲラがのぞき込む。北の地は昔も今も豊かである。初夏の草原の中で朝寝の出来る強者を私は知らない。でもそれも昔の話となった。シマアオジが消えて合唱にもならない北の自然を私たちは持ちつつある。

｜１｜２｜ eco family index ｜