被害を受けた海岸沿いの商店やホテルの多くは営業を再開しているが、観光客の姿はまだまだ少ない。「義援金はありがたいが、私たちは仕事がしたい。」と島民は口々に言う。今の段階では、観光こそ最も現実的で直接的な復興支援なのだ。
●『Even TSUNAMI cannot beat us !』
パトン・ビーチの海岸通りにひときわ目を引く大きなバナーを掲げた店があった。「ツナミにも負けず、私たちは島で一番おいしいホームメイドのピザを作り続けています!」と、そのバナーには誇らしく書かれてあった。道を行く観光客の多くは、それを見上げて立ち止まり笑顔を浮かべる。店員がすかさず「食べていってよ、おいしいよ!」と声を掛けている。
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「ツナミにも負けない!」と大きなバナーを出して
営業を再開したパトン・ビーチのピザ店
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パトン・ビーチはプーケット島の観光の中心地。押し寄せた津波は海岸沿いの道路を越え、レストランやみやげ物店、ホテルなどに激しい勢いで流れ込んだ。それから二ヶ月、海岸通りでは復旧工事が続けられ、このピザ店のように営業を再開しているところも少なくない。砂浜には名物のビーチパラソルが並び、復興への取り組みは順調に前進しているように見受けられる。しかし、現実には観光客の戻りはきわめて遅い。本来なら2月はプーケット島の観光のピーク。ヨーロッパや日本からの避寒客で、パトン・ビーチ周辺のホテルは毎日80〜90%の稼働率のはずだ。しかし、今年は10〜20%にとどまっており、3月以降の見通しも明るいとは言えない。
プーケット島は14世紀以降、錫の貿易で栄えこともあったが、現在の島民を支えているのは観光だ。観光客が戻ってこなければ、経済的な「二次災害」の影響の方がより長期的で深刻になる可能性が高い。
●「美しいビーチ」こそ復興の鍵
津波の発生から間もない1月7日、タイ国観光協会とプーケット地方自治体の関係者によるパトン・ビーチ再開発検討会が開かれた。この会合では、ビーチから15メートル以内の場所での建物の新築を規制したり、樹木を海岸沿いに植えて「グリーンベルト」を兼ねた防波堤を造るなどの計画が発表された。
パトン・ビーチに隣接したカロン・ビーチは海岸沿いに樹木が並び、潅木や草地も広かった。パトン・ビーチに比べて、ここが比較的被害が少なかったのは草木による「防波堤」効果だったと考えられている。美しい海岸が「売り」のプーケット島にとって、無粋なコンクリートの防波堤を作るのは論外だ。しかし、この災害をポジティブな方向に向けるためには、災害に強いリゾート地としての再開発が必要。「グリーンベルト」防波堤はその第一歩といえるだろう。しかし、毎年雨期になるとプーケット島は大雨にしばしば見舞われる。ビーチ沿いに植樹したり、砂丘を造ったりしても、その雨期に耐えられるかどうか、悲観的な見方も出されている。
また、「美しいビーチ」回復への思いも様々だ。パトン・ビーチを中心にしたプーケット島のビーチ・リゾートは最近やや「過剰繁栄」気味だった。パトン・ビーチには7000ものビーチチェアーがぎっしり並び、夜になれば派手なネオンがきらめく。「天国に最も近い穏やかな南国の島」というイメージより、下世話な雰囲気を楽しむ場所になりつつあったようだ。再開発のプランには、ビーチチェアーを1500に規制し、海岸での物売りを少なくし、海岸沿いの店やレストランの外観などもグレードアップして、「自然」の美しさを取り戻すことが強調されている。もちろん、「ぎっしり並んだビーチチェアーもプーケットらしいにぎわい」という声もあり、物売りで収入を得ている人々の生活をどうするのかも、これからの問題だ。
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復旧工事に合わせて、全面改装に踏み切った
パトン・ビーチのショッピングビル
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●20年前の海が戻ってきた
今回の災害で多くの観光関係者を驚かせたのは、風評被害の恐ろしさだ。被害を受けたのは島の西側の一部だが、まるで全島が壊滅したかのような報道が長い間続いた。津波が押し寄せた当日から、海岸の清掃は始まっており、被害が最も大きかったカマラ・ビーチでも清掃はすでに終わり、海岸沿いのホテルの多くはこの春に営業を再開する予定だ。
悪臭や疫病の噂も現実とは程遠い。島の西海岸で行われた水質検査では、ここ20年で最も衛生的という検査結果が出ている。島の復興状況はインターネットなどでいち早く現地の写真付きで連日伝えられているのに、ネガティブな風評はなかなかおさまらない。タイ観光局は、日本の旅行関係者などを集めて説明会などを催し、実情を知ってもらおうと努力を続けている。
カタ・ビーチにあるクラブメッドのプーケット・バカンス村も建物の一部が水に浸かったが、2月4日に営業を再開した。これについてクラブメッドのアジア・太平洋地区CEOであるジョエル・ティフォネ氏は、「援助とは、犠牲者への資金や生活物資を寄付することでなく、現地の再建や犠牲者の生活を軌道に戻すことが重要だ。」と語り、旅行業復興のイニシアティブを取ることが、島全体の復興につながると積極的な姿勢を見せている。
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カタ・ビューポイントから、見渡すカタ・ビーチとカロン・ビーチ。
パトン・ビーチはその北側に続いている。
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このような動きを受けて、日本の旅行会社でもプーケット島への「復興援助ツアー」を組むところが増えている。観光によって家計を支えている多くの島民にとって、観光客は最も効果的で直接的な「復興援助」だ。
日本人専門の現地ツアー会社で働くあるタイ人ガイドは、「私の会社では60人ものガイドをやとうほどの規模で仕事をしてきましたが、今日のお客さんは4人だけ。仕方がないけど、やっぱりつらい。でもね、こんな風に浜辺が広くなって、海がきれいになったのは不思議なほど。昔を思い出すよ。」と語る。インターネットで「プーケット島 津波」と打ち込めば、島の状況についての最新状況は手軽に手に入る。観光局の公式発表はもちろん、現地新聞の記事の日本語訳や現地を訪れた人の体験談もたくさん読むことができる。風評にまどわされることなく、適切な情報を入手して自分で判断し、旅に出てみよう。今、ここを訪れることは、プーケット島の観光再開発を「美しい海を守る」方向へと進めて行く力にもなるだろう。(取材・文 宮田麻未 写真 神尾明朗)
★今回の記事は2005年2月21日から24日の取材を元に構成しました。掲載した写真の全てもその期間中に撮影されたものです。
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