↑ アメリカ滝の上にあるゴート島が川を二つに分けている |
またナイアガラ滝周辺は社会学的にも興味深い場所だ。カナダの観光地のほとんどは、自然の美しさを「売り」にしているので、お土産屋や看板などの規制もきびしく、観光開発のありかたも地味だ。しかし、ナイアガラ滝の周辺だけは例外。大規模なカジノからお化け屋敷、UFO博物館、いったい誰が買うのかと思うほどけばけばしい土産物を並べる店、そして一流ホテルにまで真っ赤なハート型のお風呂が用意されている。一方、米国側のナイアガラ・フォール市はいたって静かで、カナダ側のような徹底した観光化はされていない。カナダが米国より地味な珍しい例といえるだろう。 この違いの大きな理由の一つは「エネルギー源としての滝」。米国側のナイアガラ・フォール市は、観光地としてより、19世紀の末から滝を利用して作られる電気を使って一大工業地域として発展してきたからだ。化学や金属関係の工場が滝周辺に進出し、ドゥポンやジレット、ユニオン・カーバイドといった国際的な大企業がナイアガラの水力発電を利用してきた。もちろん、1950年代にはカナダ側にも大規模な発電所が建設され、ここから生み出される電気は米国側にも送られている。
■714キロ続く断崖に守られた「桃源郷」 ナイアガラ・エスカープメントはナイアガラ半島を南端にして北西に向かって延びており、ブルース半島まで714キロにわたって続く壮大な断崖だ。この地形が周辺の環境に及ぼす影響はきわめてユニークで、1990年にはユネスコの「ワールド・バイオスフィア・リザーブ」に指定され、人類にとっての大切な自然環境として保護されることになったほどである。 その影響の一つがナイアガラのワインだ。ここ数年、ナイアガラはアイスワインの産地として日本でも注目されるようになったが、断崖の北側、オンタリオ湖に沿って、たくさんのワイナリーが点在している。太古の湖の底に堆積した土砂や、氷河が運んできた土砂がナイアガラ周辺に滋味豊かな土地を作り上げた。断崖とオンタリオ湖に囲まれたエリアは、まるで屏風で守られるように晩秋の厳しい寒さを避けることができる。霜の降りるのが遅ければ、果物の生育には理想的な環境だ。北国のカナダで果物を育てられる場所はそれほど多くない。 1825年には、すでにこのエリアの特殊な気候に注目した農民が桃の栽培を始めている。文字通りの小さな「桃源郷」だ。そして1950年代からはワイン用のブドウの育成も本格化してきた。現在、ナイアガラ周辺には40を超えるワイナリーがあり、ワイナリーを訪ねるためのドライブ・ルート「ナイアガラ・ワイン・ルート」も50キロにわたって伸びている。
■ナイアガラのグリーンベルトを護る オンタリオ州は「ナイアガラ公園管理局」と呼ばれる組織を作り、そこに公園や滝に直結するアトラクションの運営をまかせている。派手なネオンサインもホテル群も、滝を見下ろす崖から下には降りてこられないのはこのためだ。滝周辺は良く手入れされた公園が続き、ナイアガラ川に沿って、オンタリオ湖まで長い遊歩道とグリーンベルトが続いている。
ナイアガラでカジノに行くのも、キッチュなお土産を探すのおもしろいだろう。コカコーラやハーシーチョコレートのノベルティ・ショップもある。しかし、本当のナイアガラの魅力に出会うなら、滝周辺の緑地帯をゆっくり歩いてみたい。遊歩道を自転車で走るのもおすすめだが、断崖はかなりてごわいから要注意。秋の紅葉と滝のコントラストの美しさは格別だが、滝の水飛沫が空中に舞ったとたんに凍りつき、まるで魔法の粉のようにキラキラ輝く真冬ならなおいい。極寒時の滝はまるで氷の宮殿のようだ。観光客の少ないシーズンなら、滝とそれを囲む大自然の声もきっと見る人の耳にはっきりと聞こえてくるだろう。
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●ナイアガラ観光局: http://www.naiagarajapan.com/ カナダ側のナイアガラ観光局による日本語版公式サイト。現地の観光局から直接新しいニュースが入ってくる。更新もこまめで、ナイアガラに関連した日本語のリンクやサイト紹介も充実している。 |
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