「化石の森」国立公園の入口

三畳紀の豊かな世界が蘇る

 二億五千万年前、現在の「化石の森」国立公園の周辺は、直径3m以上もある巨大な木々に覆われていた。それらの多くは、現在の杉の木に似た種類のもので、大きく枝を張り、高さは70mにも達していたと言われている。木立の間にはシダ類が生い茂り、まるでワニのような姿のSimlosuchus Greoril など、中型の恐竜が湿地帯に生息していた。
 今、それらの木々は固い石となって乾いた大地の上に横たわっている。まるで膨大な力で一挙になぎ倒されたかのように見える。一見、荒涼とした風景だが、そこに立ってしばらくするうちに、目の前に太古の豊かな森林の幻想が浮かび上がってくる。想像力が心地よく刺激され、ゆったりと広がっていく。この公園を訪れる人の多くは、最初はその雄大な景色に見とれて大きな声で感動の言葉を口にする。しかし、巨木の化石にソっと手を触れるうちに、ほとんどの人が沈黙してしまう。まるで、太古の木々が語る言葉に耳を奪われてしまったかのようだ。

カラフルな砂漠の光景

■火山の爆発と珪化

 この豊かな森を破壊したのは火山活動だろうと推測されている。火山の爆風と、それにともなう激しい雨に押し流され、火山灰の溶け込んだ水を含む土砂の中に埋もれた木々は、珪酸水に浸されて珪化し、化石となっていった。小さな枝や葉などは残っていないが、化石には年輪や樹皮の様子までクッキリと残されており、その木が空に向かって伸びていた時のことを容易に想像することができる。川底になどに落ち込んだ木々が地中に埋没して珪化する現象は世界中で見ることができるが、「化石の森」国立公園ほど完全に近い形で、しかも大量に露出している場所は少ない。化石となる過程で、酸化鉄など、水に溶け込んだ様々なミネラルが影響して、石の色も様々に変化する。黒や濃い茶色ばかりでなく、白、赤、青く見える部分まである。中には木の中心部のウロの部分が結晶となっている美しいものも少なくない。

パーク・レンジャーによる解説ツアーにも参加できる

■岩に刻まれた太陽の観察記録?

 この「化石の森」が、国立公園として手厚く保護されている理由の一つに、敷地内に点在するアメリカ・インディアンの遺跡がある。特にニュースペーパー・ロックと呼ばれる岩には、保存状態の比較的良いペトログリフが残されており、世界中の研究者から注目されている。
ペトログリフとは、鉄分やマンガン、バクテリアなどがまじりあってできる、「砂漠のワニス」と呼ばれる褐色の物質で覆

われた岩の表面を石で削り、様々な模様を描いた岩絵。このエリアにあるペトログリフは紀元11世紀から14世紀の間に刻まれたものと考えられている。
 そこに描かれているのは、などの動物、人間、三角や円、うずまきなどの抽象的な模様など、変化に富んでいる。いったい、これらの模様が何を意味しているのか推測する手掛かりは少ない。スペインの探検隊がこのあたりに入った1540年には、すでにペトログリフを刻んだ人々( 現在のプエブロ族の祖先) もその子孫も他の地域に移動しており、言い伝えの記録も全くないからだ。しかし、シンプルな線で描かれているにも係わらず、動物も人間も生き生きとしており、不思議な力強さが感じられる。化石の木々と同じように、言葉ではない何かが、私たちの心に直接訴えかけてくるからかもしれない。 
「化石の森」国立公園のペトログリフを長年研究していたボブ・プレストンという学者は、1970年代の終わりに「このエリアのペトログリフは太陽の動きを記録したものではないか」という説を発表している。夏至や冬至の日、日の出や日没時の太陽光線が当たる場所に、太陽を表現したと思われる円やうずまき模様が描かれているからだ。プレストンの説は定説とまではいっていないようだが、太陽との関係を推測させる岩絵は他の地域でも発見されている。

宇宙人やUFO を思わせる模様もある

■砂漠は生きている

 北部アリゾナの砂漠地帯は、雨が少ないばかりでなく、水や風による浸食がきわめて早いペースで続いているので、植物が根を張れるような土壌はほとんどない。しかし、ここが死の世界だというわけではない。
 過酷な気象条件でもたくましく生きる動物たちがたくさんいるのだ。公園内にはウエスタン・ラトルスネークをはじめとして16種類の爬虫類が生息している。あざやかな黄緑色で、人を恐れる様子もなく公園のあちこちを走り回っているのはカラード・リザートと呼ばれるトカゲ。朝早いうちなら、デザート・コットンテイルと呼ばれる小さなウサギの姿を見かけることもできるだろう。また、運が良ければ、プローングホーン( エダツノレイヨウ) がまるで空中を翔るように疾走するのを見ることもできるかもしれない。
 「化石の森」公園は夏の間はかなりの高温になるし、冬は寒さがきびしい。クリスマスをのぞいて、一年中オープンしているので、春先や晩秋に訪れるのがおすすめだ。

砂漠の中に横たわる巨木の化石
「化石の森」国立公園
(Petrified Forest National Park)
公園のオフィシャル・サイトwww.nps.gov/pefo/
電話(520)524-6228
入園料 車一台につき$10
(7日間有効)

●アクセス
公園へは車以外でのアクセスはない。フラッグスタッフから国道40号線で約2 時間半。季節によってはフラッグスタッフから観光ツアーが出ている。問い合わせはフラッグスの観光局( 電話520-774-9541) へ。フラッグスタッフへはアムトラック鉄道やグレイハウンドのバスでアクセス可能。
公園内には45kmにわたって整備された道路が通っており、ほとんどのみどころは車でアクセス可能。周辺の地図などはオフィシャル・サイト参照。

●注意事項
「化石の森」国立公園内では、植物の採取をはじめ、あらゆるものの持ち出しは禁止。特に化石の持ち出しには厳しい罰金が課せられる。公園の周辺にある店などで化石を売っていることがあるが、これは私有地から掘り出されたものだ。もし、これらを購入した時は購入証明書を忘れずにもらうこと。公園に入る前に化石を買うのは誤解を招くもとなので避けた方が良いだろう。