ジョージ・C・リーフェル渡り鳥保護区の開園は毎朝九時・・・のはずなのだが、10分過ぎても窓口には誰もいない。駐車場にはすでに五台ほどの車が停まっていて、なかから小さな子供を連れた家族、シニアのご夫妻、そして、いかにも初めてのデートという感じの高校生のカップルまで出てきていた。

毎日定点撮影に訪れる人も少なくない

しかし、誰もイライラした感じはない。いつものこと・・・と、いう様子だ。駐車場の前にある池に下りて、アヒルに餌をやりながら待っている人もいた。
 「野鳥にやる餌を用意していらっしゃるんですか?」と話かけると、肩に大きな双眼鏡を下げた70代の上品な男性は首を横に降った。
 「いいや、これは僕のランチのパンをおすそわけしてるんだ。野鳥の餌は、協会の人たちが一番適切と判断したものを袋に入れて売っているので、それを買う。協会の収入にもなるからね。」
 彼の言う「協会」とは、この保護区を運営している、ブリティッシュ・コロンビア水鳥協会のことだ。1961年に創立された非営利多団体で、フレーザー河の河口に集まる水鳥たちを保護するために積極的な活動を続けている。現在も2500人以上の会員がおり、この保護区の運営も会員らがボランティアで行っている。
 アヒルたちがパンをついばんでいるのを見るうちに、どうやら協会の人がやって来たようだ。待っていた人の多くは顔見知りのようで、最近目撃された珍しい鳥の話題などをしながら、餌の袋を買って中へ入って行く。



毎年大量の鮭が産卵のためにフレーザー河を逆上って行く。ピークは四年周期と言われている。フレーザー河やその支流で生まれた稚魚は流れを下って海へもどる。その河口の湿地帯は鳥たちにとって理想的が環境だ。
 リーフェル渡り鳥保護区は、フレーザー河が作り上げた幾つもの島の一つにある。ジョージア海峡との間には20世紀の初頭に作られた堤防があり、今はそこに杉やコットンウッド、モミの木などが生い茂り、これも鳥たちにとって快適な環境。湿地帯に生える草花も餌として役にたっている。

展望台からの眺望

シベリアやアラスカ、ユーコンの産卵地で子供を生んだハクガンなどの渡り鳥たちは、越冬のためにカルフォルニアからメキシコ、南アメリカなどをめざして南下する。この壮大な渡り鳥のルートが「パシフィック・フライウエイ」だ。
いっきょに2500キロ以上も休みなく飛ぶ鳥もいるが、途中で餌をたっぷり食べて体力を整える必要がある。その中継地点として理想的な位置にあるのが、このフレーザー河の河口。鳥たちのためにここの環境を守ることは、地球規模の「空のハイウエイ」を守ることでもある。



300 ヘクタールもの湿地帯に広がる保護区は、1963年のオープン以来、政府の援助をほとんど受けずに独自の経営を続けている。その資金を提供 しているのは、入園料や寄付。会員のなかには遺産を寄付するように遺言する人も少なくない。園内に点在するベンチなども個人からの寄贈品だ。

雨の日でも観察できる展望デッキ

 湿地帯の周辺は歩きやすい遊歩道になっていて、車椅子でも入れるエリアもある。またこの周辺は、秋から春先にかけて雨が多いので雨の日でも観察できる展望デッキ、暖房付きの展望室など、バードウォッチャーがアイディアを出し合った施設も作られている。
 天気の良い日は保護区の西側の奥にある二階建ての展望台が人気。ここに上がれば、ジョージア海峡の海が見渡せ、心地よい海風を楽しむことができる。
 ここを毎週訪れているというシニアの御夫婦は「毎年少しですが寄付をさせてもらっています。鳥たちも居心地良さそうにしているけれど、一番楽しんでいるのは私たち人間の方だから。」と笑顔を見せた。



小声で話しながら、散策がてら時々空を見上げている人も多いが、一方では大型の双眼鏡や超望遠レンズを持って、じっと一点を見つめている人々も少なくない。
 ここは世界中の野鳥愛好家にとっては有名な場所なので、特に巨大な群れを作ってカナダ・ガンやハクガンが飛ぶ季節には、北米ばかりでなく、ヨーロッパからも多くの人々がやって来る。
 保護区の入口には、ここ一年の間に観察された鳥の名前を書き込む表が掲示されているが、だいたい毎年280 種以上が報告される。
 例えば、シジュウカラの一種であるブラック・キャップド・チカディーはその愛らしい姿で人気がある。冬にはマガモ専門というバードウォッチャーも少なくない。さらに、フクロウやタカ、ワシなど猛禽類も時おり鋭い角度で空を切って飛ぶのを見ることができる。
 協会の会員も、ここを訪れる常連のバードウォッチャーも、不思議なほど気負いがない。「鳥害」を受ける可能性もある周辺の農家の人々との問題にもしなやかに対応している様子だ。
「後からやってきたのは、私たち人間の方だから・・・」と、柔らかい口調で語るバードウォッチャーの言葉に、カナダ人らしい自然との共存の姿勢が感じられた。











上.
餌用の袋や地図などは
この箱に戻してリサイクル
下.
観察した鳥を書き込む手作り掲示板













上.
湿地帯を周遊する遊歩道
下.
冬期用の観察室








ジョージ・C・リーフェル渡り鳥保護区

George C. Reifel Migratory Bird Sanctuary
Westham Island, Delta, B.C., Canada
tell 604-946-6980
開園 毎日9:00〜16:00 無休
入園料 大人4ドル、子供2ドル
●アクセスや地図の情報、また、現在観察できる鳥の情報
www.reifelbirdsanctuary.com