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大都市と鮭との共存はけして簡単ではないが、コミュニティの人々は様々な努力を重ねて自然のサイクルを守ろうとしている。 |
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バンクーバー市や、その周辺の衛星自治体( 包括的にグレーター・バンクーバーと呼ばれているエリア) のあちこちには、都市の中とは思えない静かな渓谷がある。ほんの短時間の散策でも十分に楽しめる所が多いので、旅人でも気軽に訪れることができる。 グレーター・バンクーバーの地図で、そんな渓谷
キーワードは「RAVI NE」。ラビーンとは狭く切り立った小さな渓谷のことをいう。バンクーバーの南東部やバーナビーの南側辺りを見ると、あちこちにラビーンがあることがわかる。それらのラビーンの多くは公園になっている。公園といっても十分に整備されている所は少なく、たいていはうっそうとした森のように見える。しかし、よくその奥をのぞくと傾斜の急な崖になっていて、谷底には小川が流れているといった地形の所が多い。ラビーンの周辺はごく普通の住宅地だが、ほんの数分で川底へ下りて行くと、突然、現実とおとぎ話の中の森が交差するような不思議な気持ちになれる空間がひそんでいるのだ。 バンクーバー周辺で一つだけラビーンを選ぶなら、ダウンタウンからスカイトレインで約20分、エドモンズ駅(Edmonds Station) のすぐ裏( 南東) に広がっているバーン・クリーク(Byrne Creek Ravine Park) が良いだろう。 バーナビー市の南斜面には、フレーザー川に流れ込む小さな川がいくつもある。このバーン・クリークもパワーハウス・クリークなど
この渓谷の一番の魅力は、実際に鮭が産卵にやってくる「生きた川」だということだ。夏の終わりになれば、カットスロート・トラウトや、コーホー、チャム・サーモンなどがのぼって来る。そのため、この川を自然を汚染から守ろうと、たくさんのボランティアが努力を続けている。 崖の上には「塵を捨てないで! 」という手作りのサインがいくつも立てられているし、川岸には「犬の糞は鮭にとっては大迷惑」というユーモラスな張り紙が所々の木に貼られている。やがて鮭の命のルートになるのだと思うと、川の流れの美しさがひとしお心に残る。犬を連れてここを散歩している人の多くは、ちゃんと糞の始末をする用意をしているのもそのせいかもしれない。 コミュニティ全体でも細かい配慮がなされている。例えば、エドモンズ周辺の道路には雨水の流れ込む排水口があちこちにあるが、ここに流れ込む水はバーン・クリークに直接入り、水質に大きな影響を与える。歩道に描かれた鮭の絵は、雨水以外のものを流さないように、注意をうながすサインだ。 バーン・クリークの入口は、まずエドモンズ駅の南側に出て、そのままバンクーバー方向に戻る方向へ歩いて行こう。駅の横を通っている歩道の一番奥まで行くとラビーンが見えて来る。南東側にも遊歩道があるが、北西側の崖に沿って歩き始めるのがおすすめだ。最初はテニスコートなどのある広場に出てしまうので谷間を見失いがちだが、ともかく木立を目印に崖に沿った道をたどって行こう。遊歩
遊歩道は公園の南端で川岸に降りるようになっている。川岸に降りる階段の所では、崖の様子を見てみよう。川の流れに何度も転がされて、すっかり丸くなった小石と粘土状の土が見えるだろう。この崖( というよりバーナビー市南部全体が) フレーザー川が運んできた土砂で出来ているのだということが良くわかる。 川岸に出ると、フカフカと柔らかそうな苔に覆われた岩や、天に向かって力強く伸びている木々、夏には赤や藍色の実のなる灌木、何種類ものきのこなど、あちこちに興味深い自然の表情見ることができる。可憐な鳥の声も渓谷にこだましているし、川のせせらぎの音も柔らかに響いている。 遊歩道はマリーン・ドライブの道路に出た所で終わりだが、すぐ渓谷の反対側の崖に登っていこう。こちら側は整備された道ではないが、たくさんの人が歩いた小道ができている。ここををたどっていけば、やがて駅へ戻ることができる。ゆっくりあるいて一周一時間もかからない。この渓谷にはコヨーテも住んでいるが、人間をおそう危険はほとんどないので、心配は無用だ。リスや野鳥の姿を見かけることも多い。 |
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