ユニークな広葉樹林の「開発」を止めた人々
フロリダ・キーズの島々は、地質的にも、そこに生きる動植物の面でも数々の特色がある。特にハンモックと呼ばれる広葉樹林には、米国ではここにしか自生しない樹種の木々もわずかに残っている。1976年、このハンモックを守るための団体「フロリダ・キーズ・ランド・トラスト」が生まれた。中心になったのはマラソンの市民達。当時急速に広がっていたフロリダ・キーズの観光開発の波が、ハンモックを飲み込んでしまうことを心配した人々だった。
1989年、この団体(現在の公式名称はフロリダ・キーズ・ランド&シー・トラスト)はクレイン家が持っていた25.5ヘクタールほどの土地を購入した。ここが住宅地やショッピングモールとして開発されそうになっていたからだ。クレイン・ポイント自然センターはこうして生まれた。
ジャマイカ・ドッグウッド( 米国内ではフロリダ・キーズにしか自生しない) やガンボー・リンボー、アイロンウッドの林の間に続く散策路、マングローブの密集する湿地帯の上に掛けられた木造の遊歩道、自然博物館や子供博物館など、ほとんどがボランティアによる手作り。けして洗練された展示や施設とは言えないが、どこを見てもフロリダ・キーズの自然を愛する人々の気持ちがストレートに伝わってくる。
林の向こうに広がるトルマリン色の海
フロリダ・キーズの島々では、ともかく観光が最優先。美しい海岸の多くはホテルや別荘の私有地で占められている。しかし、クレイン・ポイント自然センターには静かな海辺が残されている。ハモックの中を通って、入口から一番遠い海辺を目指そう。夏の間は散策には少々蒸し暑いかもしれないが、たくさんの鮮やかな黄色の蝶々が道案内をしてくれる。冬になれば広葉樹の緑や空の青さが常夏の島ならではの鮮やかさになる。ゆっくり歩いて20分ほどで岬の突先へ着くと、目の前に大きく弧を描いて水平線が広がっている。胸の奥が痛くなってしまうほど美しい海だ。周囲には人影もなく、観光客でにぎわうフロリダ・キーズから、どこか遠くの孤島に飛んでしまったような気さえしてくる。水辺近くはトルマリンの宝石を溶かしたような透明な水色、水平線に向かって海の色がだんだんエメラルド色に変わっている。そんな不思議な色の海の上をペリカンが大きな羽をいっぱいに広げて飛んでいく姿は、おとぎ話の世界のような光景だ。
釣り人に傷つけられた鳥の保護
フロリダ・キーズは景色の素晴らしさばかりでなく、スキューバダイビングや魚釣りの好きな人々にとっても世界的に有名なエリア。しかし、魚釣りは時として鳥達の命を脅かす。クレイン・ポイント自然センターの敷地にはさまざまな理由で傷ついた鳥を保護し、可能な限り自然に戻すための保護施設、マラソン・ワイルド・バード・センターもある。
鳥は通常、自分たちが自力で獲れる大きさの魚より大きな骨を消化する機能を持っていない。釣り人が大きな魚をさばいて、残りの骨や内臓を海に捨てたりすると、鳥達は自分
の消化機能以上の大きさの骨を飲み込んでしまう可能性がある。消化能力を超える大きさの骨は鳥の内臓を傷つけ、死をもたらす原因になりかねない。
また、釣り糸も鳥達には大きな脅威になる可能性がある。不用意に捨てられた釣り糸が体や足にからみつき、鳥の飛翔を妨げたり、呼吸を困難にすることがあるからだ。釣針にひっかかったり、飲み込んでしまう鳥も少なくない。
保護センターには、異物を取り除いたり、怪我を治療したりする手術の施設を始め、鳥達が自然に帰れるようになるまでの「仮の宿」が設けられていて、見学することもできる。治療を受けている間に卵を産む鳥もいて、いつも好奇心いっぱいの子供達に人気のある場所だ。
住民の歴史の跡も見逃せない
クレイン・ポイント自然センターの敷地内には、人間の歴史の面でも興味深いものがたくさんある。このエリアは700年以上前から先住民に利用されていたことが考古学的調査で明らかになった。エリア内の博物館には、カヌーや土器などの出土品が展示されている。
また、20世紀初頭に海綿の採集などに従事していた人々の当時のままの家も残されている。アダレー・ビレッジと呼ばれ、フロリダ・キーズでは最も古い建築の一つ。バハマ様式の珍しい例として歴史的に貴重なものだ。
さらに、かつてこのエリアを所有していたクレイン家の邸宅も見逃せない。1940年代の終わりに建てられたこの家は、マラソン周辺での最初の「現代住宅」。アダレー・ビレッジの家との比較が興味深い。
(この記事は2002年7月の取材をもとに構成したものです。)