アルバータ州のフォート・マクマレーは、カナダの(というより世界の)オイル・サンド産業の中心地だ。オイル・サンドとは、砂の中に「ビチューメン」と呼ばれる、ほどんど黒に近い藍色のネットリした油成分がしみ込んで地下に堆積しているものだ。砂を分離してビチューメンを精製すれば油田から吹き出る「原油」と同じものを得ることができる。
アルバータ州北部には、およそ8万平方キロという広大なエリアにオイル・サンドが堆積していると言われる。フォート・マクマレーを中心にしたアサバスカ地区の4万平方キロは、オイルサンドの堆積が比較的地表に近く、その内7%程度は露天掘りで採掘することができた。これがフォート・マクマレーの発展の主な原因だ。
オイル・サンドの採掘は1975年に本格的に始まり、ほぼ露天掘りで掘り出せる分は採掘しつくしつつある。今後は地下のビチューメンをどうやって地上に絞り出すかがカナダのエネ
ルギー問題の鍵を握っている。近い将来カナダの石油需要の半分はオイル・サンドに頼ることになるからだ。
巨大なシャベルでオイル・サンドが掘り出した跡はけして美しいものではない。地平線まで続く黒々とした採掘現場は、人間のエネルギーに対する欲望がどれほど強いものか思い知らされるような荒涼とした風景だ。しかし、この採掘跡を埋め立て、新しい命を吹き込もうというプロジェクトが、オイル・サンド業界と地元住民との共同で始まった。埋め立てた地面に植林するという緑地化と平行して、フォート・マクマレーではバイソンの放牧するというユニークなコンセプトが導入された。これには地元のファースト・ネーション(先住民)の人々も積極的に協力しているという。
1885年の時点で生き残っていたのはわずかに数百頭というバイソンの絶滅を回避するために、カナダ政府が動きだしたのは1907年のことだ。モンタナの牧場主から当時としては破格の1頭につき、200ドルというお金を払って716頭のバイソンを購入したのだ。これらのバイソンがアルバータの州都エドモントンの近くのビーバー・ヒル(現在のエルク・アイランド国立公園)やバンフなどの保護区に送られ保護繁殖が始められた。フォート・マクマレーのバイソンはエルク・アイランド国立公園に保護されていたものの一部を移したものだ。
北米にはプレインズ・バイソンとウッド・バイソンの2種類が生息しているが、ウッド・バイソンの数の方が極端に少ない。フォート・マクマレーに移されたのはウッド・バイソンで、1993年には30頭だったものが、現在約200頭まで増えている。このエリアで採掘を行っているシンクルード社は、最終的には、250平方キロの土地を埋め立て、1000から2500頭ほどのウッド・バイソンが自然の状況で生存するのに必要な、森林、草原、池などを配置する計画を発表している。フォート・マクマレーの北約40キロの地点には、高台から埋め立て地を見渡す展望台が作られている。
ここからは約2メートルほどの高さに育った木々と、のんびりと歩き回るバイソンの群れを遠望することができる。自然保護と人間の健康な生活を守りながらエネルギー源を確保することは容易なことではない。自然と共存してきたファースト・ネーションの人々のかつての暮らし方はバイソンの消滅と共に消えてしまった。しかし、再生しつつあるフォート・マクマレーの大地に生まれてきたバイソンが、人と自然の共存方法を新たに教えてくれてくれるかもしれない。