スコーミッシュ渓谷は、カナダのバンクーバーから北へ約60km、スキー・リゾートとして世界的に有名なウィスラーへ向かうハイウエイの中間地点にある。頂に、蒼く輝く宝冠のような氷河を湛える峰々に囲まれたこの渓谷の底には、スコーミッシュとチーカムスという美しい川が流れている。これらの川には、毎年秋になると産卵のために鮭が昇ってくる。この鮭を目掛けて飛来するのが、白頭鷲だ。
米国のシンボルとして白頭鷲が選ばれたのは「米国産」を強調するためだそうだ。確かにこの鳥はアラスカからフロリダまで広く分布している。しかし、一か所で一番たくさん白頭鷲を見ることが出来るのは、実はカナダのスコーミッシュ渓谷だ。
白頭鷲は、普段は群れを作らない。スコーミッシュ渓谷に一群が集中するのは、川を昇ってくる鮭の数の多さゆえ。餌を求めてあちこちから鷲が飛来するというわけだ。何羽もの巨大な鳥が鋭い眼差しで水面を見つめながら、高い木の枝に止まっている姿を眺めるのは、他のバード・ウォッチングとは一味違う感動を呼ぶ。大きな鳥だけに、初心者が見つけやすいのもいい。
スコーミッシュ渓谷の入口の町スコーミッシュでは木材産業が盛んだが、町民は自然の保護にも熱心だ。特に、町の北端にあるブラッケンデール地区では、白頭鷲のメッカとして様々なアイディアが生かされている。
その一つが、ブラッケンデールで1月一杯開催される「イーグル・フェスティバル」。白頭鷲が集まるのは11月の中旬から3月始めにかけてだが、1月初頭から2月半ば頃までがピークになる。そこで1月にイベントが行われるわけだ。また、各種のイベントの中でも、毎年最も注目されるのが、1月初旬の1日を選んで行われるイーグル・カウント。アメリカ中から集まるバード・ウォッチャーが一斉に白頭鷲の数を数える。
現在までのところ、カウントされた最高数は1994年の3769頭。米国領土内では、アラスカのチルカット川沿いでカウントされた3495頭が最高だから、スコーミッシュ渓谷の記録の方がはるかに多い。
直線距離で約10kmの川沿い地域に膨大な数の白頭鷲が集っている様子は、まさに壮観という言葉がぴったりだ。
枝に止まっている時にも、その鋭い目つきや頭を高く上げた姿から、倣岸な雰囲気さえ醸している白頭鷲。少々の音では動揺する気配もない。しかし、実は人間が150m以内に近づくと、餌を探すのを止め、警戒態勢に入ってしまうと言う。
ブラッケンデールでは、スコーミッシュ川の東側にイーグル・ウォッチングの展望エリアを設け、西側は「イーグル保護区」に指定して人間の立ち入りを禁じてしまった。川が人と鳥を隔離しているわけだ。もちろん、鳥は自由に飛び回れるから、西側の道路脇の梢に何頭もの白頭鷲を確認できる日が少なくないのだが・・・。
白頭鷲のシーズン中は、経験豊かなガイドが案内してくれる「イーグル・ウォッチング散策ツアー」や、白頭鷲を中心に、野鳥や野性動物の写真を撮るコツを教えてくれるワークショップなども催行される。また、イーグル・ウォッチングのポイントを表示した周辺地図なども発行されている。
スコーミッシュ渓谷の冬の寒さは、カナダでは比較的厳しくない方だ。しかし、長時間野外にいることになるので、十分に防寒対策をした服装が必要。特に、足元から寒くなるので、しっかりした防寒靴は不可欠だ。