月の光の話を書いてきた。
この前ちょうど月蝕があった。
鹿児島で見たという友人から連絡があった。
北九州でもよく見えたらしい。
蝕。
空間に浮かぶ天体が天体を隠すということ。
光を出すものとそれを反射して光るものと
そのあいだに入ってその行為を隠すもの。
あるいは、その行為を実証するもの。
宇宙における三位一体力。
そのバランスの秘めたる位置の確かさ。
月の力が影響を及ぼすものとして
潮の満ち引き、人体のバイオリズム、大地の寝息。
しかし、そこに潜む狂いや暴れをまた、人は感じとる。
反射光は怪しい。
凛と尖った秋風の中で、月に吠え、
自分だけは狂わないでいたいと密かに願い、祈り、
光を浴びることで狼に変身する。
カンボジアのアンコール遺跡に感じる
あふれんばかりの狂気は、月の夜に、もっと
明らかになる。
泥水をすすり、蛇とまぐわう、
ヨブのような王が熱病に魘され、
沸騰した脳で作り上げる多様な幻。
ミシマがライ王のテラスで書いた異形の世界が
曼荼羅に目の前に現れる。
バイエルンの狂王には白鳥が舞い降りた。
シェムリアップのジャングルには
体温44度の高熱が襲いかかる。
目の前に七色の電流が流れる。