ノマドの世紀に第4回

 

写真:カンボジア

タイトル

月の光の話を書いてきた。
この前ちょうど月蝕があった。
鹿児島で見たという友人から連絡があった。
北九州でもよく見えたらしい。
蝕。
空間に浮かぶ天体が天体を隠すということ。
光を出すものとそれを反射して光るものと
そのあいだに入ってその行為を隠すもの。
あるいは、その行為を実証するもの。
宇宙における三位一体力。
そのバランスの秘めたる位置の確かさ。

月の力が影響を及ぼすものとして
潮の満ち引き、人体のバイオリズム、大地の寝息。
しかし、そこに潜む狂いや暴れをまた、人は感じとる。
反射光は怪しい。
凛と尖った秋風の中で、月に吠え、
自分だけは狂わないでいたいと密かに願い、祈り、
光を浴びることで狼に変身する。

カンボジアのアンコール遺跡に感じる
あふれんばかりの狂気は、月の夜に、もっと
明らかになる。
泥水をすすり、蛇とまぐわう、
ヨブのような王が熱病に魘され、
沸騰した脳で作り上げる多様な幻。
ミシマがライ王のテラスで書いた異形の世界が
曼荼羅に目の前に現れる。

バイエルンの狂王には白鳥が舞い降りた。
シェムリアップのジャングルには
体温44度の高熱が襲いかかる。
目の前に七色の電流が流れる。