編集部
世界一という高さについては、いつ頃からゴールにされてきたのでしょうか?
今村
正直、我々はこれについては必ずしもこだわっていませんでした。今回の電波塔の建設条件として、放送事業者からは500メートル以上というオリエンテーションはありました。当初は610メートルというプランだったのが、中国にライバルが登場したという報を受け、最終的には"世界一をつくる"というモチベーションが634メートルへと押し上げました。
ただ、新しいものは古くなり、世界一もいつかは追い越されます。これは世の摂理です。ですから我々が本当に目指しているのは"世界一の高さ"ではなく、"世界一のおもてなし"です。この地に継承されてきた"江戸の下町気質"は、適度に噛み応えがあり、実にいい味を醸し出しています。この下町気質と人情の厚さを世界に通じる魅力として育ててゆきたいのです。ひとつひとつの出会いを大切にする下町気質は、時にはちょっとしたおせっかいかもしれません。ただ、体温を感じるあたたかな人間同士のふれあいを、世界各地からいらっしゃるお客様に味わっていただけたら本当に嬉しいですね。
編集部
川を中心に展開する Rising East Project での景観プランについて伺えますか?
今村
当初から、隅田川の存在はこの東京スカイツリータウンの景観の 大きな魅力になると、誰もが直感していました。
景観照明でも隅田川の川面をイメージしたデザインが実施されますが川が持つ景観は、都市のランドスケープに独特の品格と広がりを与えてくれます。パリのセーヌ川、ロンドンのテムズ川、ニューヨークのハドソン川、そして東京ではなんといってもこの隅田川です。水とのふれあい、その共生は今後、きっと大きな観光資源となるはずです。関係各位の皆様と知恵を絞り、その資質を磨き上げてゆこうと考えています。いずれにしても、今回は台東と墨田が橋向うとして分断されるのではなく、川を挟んで見つめ合うことで成立するRising East Projectとしてのまちづくりです。それぞれの地区が個性を生かしたおもてなしを創り上げてほしいと考えています。
編集部
東京スカイツリータウンのオープンに向かって、最重要課題について伺えますか?
今村
安心と安全、このふた言に尽きます。今回もゴールデンウィークでの開業という案もありましたが、弊社は鉄道会社として培ってきた"安全運転"という基準が何よりも優先されます。せっかくお越しいただくお客様と東京スカイツリーとの最初の出会いが楽しいものとなるのは、まず安心で安全なオペレーションありきです。そのために最後まで徹底した安全なオペレーションへの検証とその準備が必要だと自覚しています。
2012年5月22日は我々にとって、新しい時代を刻む時計が新たな時間が刻み出す日、この日が楽しい記憶に彩られた"ごく普通の一日"になるようひたすら準備したいと考えております。
2011年8月1日・東武鉄道本社(押上)にて