編集部|
この秋、設立して2年の記念日を迎える「漁業ブ」。現在、最も力を注いでいるテーマをお聞かせください。
小西|
取り組むべき課題はまさに山積状況ではありますが、最初にお話ししたように、まずは水産物のブランド化=高付加価値化を通じた、漁業生産者の報酬改善です。
漁とは、天候にも大きく左右される海に漕ぎ出し、身の危険を冒し、魚を獲ることです。そうした厳しい労働環境での就業であるにもかかわらず、漁業生産者は青果物の生産者と比べても、著しく利益の取り分が少ないのです。この現実をなんとしても改善しないと、今後、漁業を担う人材確保は益々困難になってしまうでしょう。
編集部|
水産物の流通は青果物に比べて、さらに複雑なようですね。
松井|
日本の水産物は通常、産地市場と消費地市場の二つの仲卸を通るため、市場内流通は過剰経費を生み出しやすいと言われています。また大手流通や商社などが直接大量に買う市場外流通では、マーケットで売りやすい価格にあわせ、彼らの規格ルールやパッケージで流通・販売するシステムが出来上がっています。
そこでは顔の見える生産者の、漁法や美味しく育てるこだわり、鮮度や品質を保ち加工する技術などの情報も伝えられていません。これでは、消費者が“美味しい魚”を識別し、手に入れることは非常に困難です。
編集部|
良質な美味しい魚を見分けると言っても、街にお魚屋さんが消え、スーパーかデパートの魚売り場でパック詰めされた魚を買うしか術がない消費者にとって、魚の質の基準となるのは「産地」と「天然・養殖」の2択しかないのが実情です。よって、“有名な産地”と“天然”ものが値段も高く、良質で、それが美味しいという判断をしていると思います。
松田|
だからこそ、私たちは実際に“食べていただくこと”を大切にしているのです。
“美味しい”と、自ずともっと知りたくなるもの。魚の名前、旬、獲れた場所、鮮度の見分け方、捌き方から調理法まで、さらにその先へと興味が広がるものです。
松井|
「漁業ブ」では実際に現場を訪ねる体験ツアーを企画し、“美味しさ”の裏側にある段階ごとに施される“手当て”を見ていただくプログラムも組んでいます。
釣り上げられた船の上、水揚げされた港での処理、漁港から消費地であるマーケットまでのコールドチェーン、それぞれの段階で、適切な処理と温度・湿度の管理があって、美味しさはテーブルにまで届けられることを知っていただいています。
編集部|
“手当て”=「Care(大切にする)」とは、いい言葉ですね。
世界が評価する日本の“おもてなし”文化は、まさにこうしたお客様には見えない場所での“手当て”によって醸成されてきたと思います。
今こそ、その価値を、これを“見える化”することで、漁業生産者に正しい労働対価が支払われる流れを創出するというお考えなのですね。
小西|
2018年、70年ぶりに漁業法が改正され、持続可能な漁業を実現するための法規制も少しずつ整いつつあります。データに基づく資源管理の実効性や違法漁業の規制など、まだ課題は山積していますが、環境変化と社会の関心の高まりを追い風に、各地の素晴らしいパートナーたちと共に、次世代に「美味しい水産物」を届けられるよう活動したいと思っています。
水産庁|水産改革の資源解説ムービー
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/kaikaku/sskkpointvideo.html