~地球の声に耳を傾ける~
エコピープル

2024年冬号 Ecopeople 102
「漁業ブ」設立メンバーインタビュー

1 「漁業ブ」設立へ

編集部
漁業ブのサイトを拝見すると、
“ブランディングを通じて、持続可能な日本の漁業を支援する”
という大見出しと共に、
“日本の漁業は、今かつてない危機に瀕している。
乱獲による資源枯渇と漁獲量激減、海洋温暖化による生態系変化。
漁業従事者の高齢化と人材不足、事業継承の問題。テクノロジー活用による産業化や付加価値化の必要性。
まさに、社会課題の縮図がここに顕在化している”

というショッキングなテキストが続きます。 日本の漁業は現在、そこまで追い詰められているのでしょうか?

小西
近年、私自身が日本の漁業現場で感じてきたことは、文字通り“危機的状況”にあるという現実です。水産業界にいらっしゃる方はこの厳しい現実を認識されていますが、一般にはほとんど知られていないと思います。
1990年代にピークとなった漁業生産量は、その後衰退に転じ、現在は半減。さらに30万〜40万人はいた漁業従事者も現在は12万人にまで落ち込み、しかも平均年齢が60代半ばというのが実情です。




小西
さらに、この生産性の低さに加え、流通では漁業生産者の価格決定権がなく、利益の取り分があまりに低いのです。ある意味、毎日が“命がけ”の職場環境でもある海に出る漁師さんたちの収入が、他業種に比較して著しく低い上に、今後予想される就業者の高齢化が進むと、将来的には日本から漁業従事者がいなくなる可能性があると言わざるを得ません。
編集部
ただ、先ほどお示しくださった世界全体の漁業生産量のグラフでは、右肩あがりの成長産業ように見えます。

小西
そうなんです。視界を世界に転じると、漁業は近年、養殖業を中心にものすごいスピードで成長しています。急速に伸びる需要に対して供給量も急ピッチで増加している。つまり、今後は世界規模で拡大する魚食ニーズに対応するべく市場規模も成長率も、さらに発展することがはっきりしています。
編集部
世界中で魚食ニーズが高まり、“漁業”という分野でかつては圧倒的に優位を誇った日本(1984年世界第一位)が、何故ここまで衰退に陥ってしまったのでしょうか?

小西
要因は複数挙げられますが、最大の理由の一つは漁師さんたちの労働に対する対価があまりに低いことがあります。
編集部
改めて、小西さんたちが「一般社団法人 漁業ブ」を立ち上げた理由をお聞かせくださいますか?

小西
私は前職も含めて、企業や自治体などのブランディングやマーケティングの専門家として多くの案件を経験し、スキルを磨いてきました。最初は地方の漁業生産者の方からブランディングの相談を受けたのがきっかけですが、現場に足を運んでみると、第一産業、とりわけ漁業の現場での漁師さんたちの過酷な労働環境、そしてその労働対価の低さを知ってショックを受けました。
巨大組織から独立し、事業を立ち上げるにあたり最初に考えたのは、自分のスキルをベースに“手段”ではなく”目的”とする仕事をしたいということでした。
依頼を受けたブランディングプロジェクト等で、漁業現場を視察するべく漁船に乗り込み、漁師さんたちの仕事を間近で見る機会を何度も持ったのですが、場合によっては生命の危険とも隣り合わせのような大海原で、勇敢に海と立ち向かう漁師さんの姿を見てきました。そして、彼らの隣で「自分は今、ここで、生きていること」を実感する感動を何度も味わいました。彼らのカッコ良い姿が強烈な印象として脳裏に刻まれていたこともあり、起業にあたっては、あの漁師さんたちに必要とされる仕事をしたいと思うようになりました。
編集部
一般社団法人を設立するにあたっての賛同者集め、理事の人選はどうあるべきと、考えられたのですか?

小西
「漁業ブ」の設立理事、松田さん、松井さん、そして今日は出席が叶わなかった食メディア編集長、小西克博さんはいずれも「食」に関わるプロフェッショナルです。
「漁業ブ」が掲げる目標を実現していくには、“漁業ブ”の支援活動を多面的にサポートするプロチーム無くしては成立しません。さらに、日本漁業の実情を知り、未来への危機感を共有し、実際に共に行動してくれる“アクティビスト”でなければなりません。
幸いにも私の周辺には、この条件を満たし信頼できる友人たちがいたのです。
編集部
みなさんは以前からのお知り合いであり、かつ小西さんからお誘いがあった時、日本の厳しい漁業の実情もご存じの上で、「漁業ブ」に参加されたのですね。

松井
富山県出身の私は以前から、地元の山海の幸を美味しくいただく食イベントを開いたりしていました。小西さんの危機感を伺った時、フードビジネスコーディネーターとして富山の水産物のメニュー開発や流通や販路拡大など、今までの知見が活かせるかと。
まずは、実際に「美味しく食べること」の大切さを痛感していたので、漁業ブでは「食べる」活動が主軸になると聞き、お役に立てるのではないかと思いました。
松田
漁業ブでは、レストランや料亭の広報を通じて培ってきた私のネットワークをベースに、メディア発信や生産者とシェフのマッチング、そして体験イベントやツアー企画等で、漁業の魅力と可能性を伝えるシーンで貢献できると思いました。
松井さんがおっしゃったように、実際に「美味しく食べる」ことが、その価値をダイレクトに伝え、漁業全体への社会意識を確実に変えると思います。