~地球の声に耳を傾ける~
エコピープル

2024年秋号 Ecopeople 101
中村桂子さんインタビュー

3 生きものとしての人間、自然と一体であることを受け容れる。

編集部
ただ、利便性を手に入れてしまった現代人にとって、縄文人が体得していた自然と共に生きるライフスタイルを私たちの暮らしに取り入れるのは、なかなか難しいのではないでしょうか?

中村
私たちは社会の要員であると同時に、一生活者でもあります。個人の生活者として普段の暮らしに“生きもの”としての視座を持ち、そこで目にする日常に目を配り、自身の感覚や判断を反映した生き方へシフトしていくことが、地球全体の諸問題を解決する突破口になるのではないでしょうか。
つまり、自然とわたしたち人間が一体であることを自覚した上で、社会を創っていくという姿勢です。科学技術で全てを解決しようとするのではなく、相対的に捉え、社会全体、あまねく情報を共有し、「生きもの」の視点で物事を判断し、行動するという生き方です。
編集部
確かに、近年の通信技術の急速な進歩のおかげで、自分の身体感覚に不問のまま、物事を安易に受け入れ、判断しがちです。

中村
この夏の熱中症アラートにしても、その異常さを自身の肌身で感じることができていれば、危険と報道される状況がどのような状況を意味するのかを想像でき、対策も立てられますが、多くの場合はそうした予測ができないような実情なのでしょう。
編集部
確かに、この夏の猛暑一つをとっても、「不要不急の外出を避け、冷房の効いた室内でお過ごしください」とアナウンスされるだけでは、自然がどのような状況なのかを察知するセンサーを遮断し、私たち人間から自然をどんどん遠ざけているのが現実です。

中村
自然に対して開かれた日常を持つことは、“生きもの”である人間にとってとても大切なことです。さまざまな自然界に生きものの姿に触れ、その多様な普通を受け容れて暮らすことができれば、身近な場所からの自分なりの自然に寄り添った暮らし方を見つけ出すことができるはずです。
私は東京に住んでいますが、この夏も冷房は使っていません。窓を開いて暮らすのが好きなので。日中はもちろん暑いですが、風を持して暮らし、夕方には涼しい風が吹き抜ける時間を楽しんでいます。
生活者として自分は”生きもの”の一つであるという考え方を堅持できれば、現在、施行されている政策や方針のさまざまな矛盾に気づき、未来に禍根を残す可能性があることも想像できます。
編集部
3.11以降の日本のエネルギー政策での原発の再稼働議論、再生可能エネルギー推進計画。大切な日本の国土を保全する上でも、人間と自然が一体であるという枠組みの下で、より透明性の高い議論が求められていることは感じます。

中村
太陽、海、風、水、川、これらはそれぞれの地域の風土となり、そこに生息する生きものたちの生活環境をつくり上げてきました。太陽の光、海流と海辺の環境、風の恩恵、水の流れ、いずれも全ての生きものにあまねく行き渡り、享受されるべきものです。
人間のみに適用される利便性や効率、市場経済の理論で開発や工事を推進することは、想定外の自然災害を引き起こす危険性を秘めていることは誰でも想像できるはずです。
太陽光を生かすことは、数十年前までは強い夏の日差しの下にの水を入れた盥を置き、夕方には熱くなったお湯で子どもたちが遊びながら行水するような、その場で生かされ、個人がそれぞれに楽しむ夏の風物でした。
ところが現在は、都市周辺の森や山が切り拓かれ、太陽光パネルを一面に設置し、そこで出来た電気を都市に運び、そこでお風呂を沸かすエネルギーとして使用する。いくつものプロセスを設定することで利益を得る経済システムとしてメガソーラーシステムが推進されています。しかも、そのソーラーパネルに集中的に蓄積された熱波によって雨雲が発生し、豪雨となり、伐採されて樹木を失った山が崩れるなど、広域を破壊する大惨事の要因にもなっています。
全ての生物の関係性によって、38億年の時間をかけて築き上げてきた生命誌の知見、人間は今一度、全ての生物と同等、”生きもの”であることを大切にし、暮らし方を考えると、心豊かな社会がつくれるだろうと思っています。